Ripple社が最初期に銀行へ提案したのは、国際送金における「情報」と「資金」の流れをより良くするための仕組みでした。その後、2017年には「xCurrent」「xRapid」「xVia」という3つの製品が発表され、それらはやがて「RippleNet」や「ODL」という仕組みを経て、現在の「Ripple Payments」へと発展していきます。
では、2026年現在のRipple Paymentsは、送金プロセスの「どこからどこまで」を扱えるようになっているのでしょうか。2026年3月に発表された機能拡張が、その答えを分かりやすく示しています。
送金の前後まで含む仕組み
海外の取引先へ支払いを行う企業を想像してみてください。まず自社の口座にある資金を確認し、必要な国の通貨へ交換してから送金を行います。一方、受け取る側でも、口座やデジタルウォレットへ確実に資金を届け、「これはどの請求書に対する支払いなのか」を照合しなければなりません。つまり、ネットワーク上を資金が移動する「一瞬」だけが速くても、その前後にある入金確認や払い出しの処理に時間がかかってしまっては、企業の業務はスムーズに終わらないのです。
これに対して、Ripple社が2026年に説明した新しいRipple Paymentsは、円やドルなどの「法定通貨」と、価格が安定した暗号資産である「ステーブルコイン」の両方について、受け入れ・保有・交換・払い出しまでのすべてを一つのプラットフォーム(システム基盤)でまとめて扱えるサービスへと進化しました。
以前は、国や通貨ごとに別々の業者と契約を結び、入金先、交換先、払い出し先といった情報を自分たちでつなぎ合わせる必要がありました。しかし、これらの窓口が一つにまとまることで、企業の担当者は「今、資金がどこにあるのか」「無事に着金したか」をとても簡単に追いかけられるようになります。もちろん、世界中どこでも全く同じ通貨・同じ方法で一律に支払えるというわけではありません。実際の送金ルートは、サービスが提供されている地域や顧客との契約内容、そして利用する資産の種類によって自動的に決まります。
買収した企業の技術が加わる
この便利な仕組みの裏側には、Ripple社が新たに買収した企業の優れた技術が活かされています。
たとえば、2025年に買収が発表されたRailという企業は、企業向けの法定通貨やステーブルコイン決済を専門としています。同社は、取引先からの入金を識別するための「仮想口座」や、入金を照合する事務処理の技術に強みを持っていました。ここでの仮想口座とは、暗号資産のウォレットのことではなく、「誰からいくら受け取ったか」を会社が整理しやすくするための便利な口座機能のことです。
また、同じ年に買収したPalisadeは、デジタル資産のウォレットを素早く作成し、日々の頻繁な入出金を安全に処理する技術を持っていました。Ripple社にはすでに、金融機関が資産を長期的に安全に保管するための「Ripple Custody」というサービスがありますが、Palisadeの技術はそれとは異なり、決済のために日々せわしなく資金を動かす業務を支えるものです。
企業が顧客から代金を受け取り、必要な通貨に交換して支払いを行い、残った資金を運用口座へ移すまでには、いくつもの業務が必要です。Railの技術は入金の識別・照合や法定通貨とステーブルコインによる決済を、Palisadeの技術はデジタル資産を扱うウォレットの作成や入出金を支えます。さらに、GTreasury(Gトレジャリー)は、企業全体の資金状況を一覧で把握し、いつ、どこへ資金を移すか判断するためのソフトウェアを提供してきました。3社の技術はそれぞれ、決済とその前後にある資金管理の異なる部分を担っています。

暗号資産「XRP」とステーブルコインの使い分け
第7章でご紹介した「ODL」という仕組みは、暗号資産である「XRP」を橋渡し役(ブリッジ資産)として使い、異なる通貨同士の交換をスムーズにつなぐ方法でした。
一方、米ドル建ての「ステーブルコイン」は、ドルの価値をデジタル上で表す資産として、決済や資金の保有にそのまま使われます。XRP自体には「発行者にドルを返してほしい」と請求する権利はありませんが、ステーブルコインには明確な発行者がおり、裏付けとなる準備資産や、ドルと交換(償還)するための条件が定められているという違いがあります。
最新のRipple Paymentsは両方を扱えるようになりましたが、だからといって1回の送金で常に両方が使われるわけではありません。「どの通貨を送って、どの通貨で受け取りたいか」、そして「支払い先はどこか」といった条件に合わせて、その時々で最適な経路が選ばれる仕組みになっています。
数字から見える事業の広がり
Ripple社は2026年3月、Ripple Paymentsを通じて処理された決済の累計額が「1,000億ドル」を突破したと発表しました。
これは、ODLやXRPを使った取引だけではなく、サービス全体で処理された決済すべての合計額です。第8章で取り上げた「2020年時点のRippleNetの取引件数」とは集計の期間も単位も異なりますが、Ripple社が「初期の銀行間送金の技術」を提供する企業から、「法定通貨とデジタル資産の入出金をまるごと扱う巨大な事業」へと大きく成長したことを実感できる重要な手がかりになります。
単に「送金の情報を速く伝えること」からスタートしたRipple社は、今や「資金をどう用意し、どう交換し、どこで受け取り、どう管理するか」というお金にまつわるあらゆるステップを総合的に扱う企業へと変貌を遂げました。続く次の節では、この革新的な仕組みが、実際にブラジルという国でどのように展開されているのかを具体的に見ていきましょう。