国際送金では、送り手と受け手の口座残高が変化しますが、では、株式や投資ファンドを売買したときには、いったい誰がその権利の移動を記録しているのでしょうか。実は、証券市場にはその記録と受け渡しをしっかりと支えるための専門的なインフラが存在します。ブラジルのCSD BRとRipple社が2026年9月に発表したのは、まさにこの重要な領域でXRP Ledgerを活用する画期的な取り組みでした。
中央証券保管機関は何をしているのか
CSDとは「中央証券保管機関」の略称です。普段、証券会社のアプリ画面などでは、株式やファンドの持分を購入すると簡単に保有数量が表示されます。しかし、その目に見えない裏側では、誰がどの証券の権利を実際に持っているのか、そして取引のあとにどのように安全に受け渡すのかを正確に記録しなければなりません。CSD BRは、ブラジルにおいて登録、保管、決済システムとして正式に認可されている信頼性の高い金融市場インフラであり、決して単なる送金アプリや暗号資産取引所ではありません。
この取り組みで最初に焦点を当てているのは、ブラジルの大手金融グループであるBTG Pactualの投資ファンド持分です。計画では、CSD BRが安全に保管している持分をXRP Ledger上にミラーリング(複製)し、「Multi-Purpose Token(MPT)」と呼ばれる形式で記録することを目指しています。このMPTは、発行する資産のさまざまな属性や取り扱い条件をブロックチェーン上の台帳に分かりやすく表現するための専用トークン規格です。誤解されやすいポイントですが、投資家がファンドを買うたびに、XRPそのものを受け取るという仕組みではありません。
正式な記録はどこに残るのか
このプロジェクトを進めるうえで非常に重要なのが、二つの異なる台帳が果たす役割の切り分けです。法律上の登録、保管、決済といった「正式な記録」は、これまで通りCSD BRの中央システムがしっかりと担います。一方、XRP Ledgerは、情報をスムーズに照合し、透明性を高めて監査しやすくするために新しく追加される補完的な層となります。これにより、関係者は公開台帳上の記録とCSD BRの公式記録をいつでも照らし合わせ、履歴に食い違いがないかを確認できるようになるのです。
今回の共同発表は、実際の市場取引が行われる環境の中で、透明性や処理の効率性がどのように向上するかを検証する実証的な計画を示しています。ただし、正式な所有権の法的判断そのものが公開台帳側へ移行するわけではありません。また、証券の売買代金を暗号資産のXRPで支払うという発表も含まれていません。銀行間の送金と同じように、ここでも「情報を記録する」「権利を成立させる」「代金を決済する」という作業は、それぞれ独立した別の仕事として切り分けられています。このように、既存の堅固な法制度やインフラの上に新しい記録層を賢く付け加えるというアプローチから、金融市場におけるブロックチェーンの本格的な利用が始まろうとしています。