前節では、日本銀行による長期国債の買入れと、銀行が日本銀行に持つ当座預金の関係を見ました。日本銀行が国債を買い入れて代金を支払うと、銀行の当座預金が増えます。この当座預金と銀行券を合わせたものがベースマネーです。ベースマネーが増加する仕組みは次のように説明することができます。
- 銀行が国債を購入すると銀行の日銀当座預金が政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる。
つまり、政府は国債を発行することで、民間銀行から日銀当座預金残高を借りる。 - 政府は日銀当座預金を担保に「政府小切手」を発行し、代金の支払いに使うことができる。
例えば、政府は財政出動の際に公共事業の請負企業に政府小切手で代金を支払う。 - 企業は政府小切手を銀行に持ち込み、政府からの代金の取り立てを依頼する。
- 取り立てを依頼された銀行は、それに相当する金額を企業の口座に記帳すると同時に、代金の取り立てを日銀に依頼する。
銀行が企業の口座に、受け取った政府小切手の額面分の残高を反映することで新たに民間預金が生まれる。 - 日銀は政府の日銀当座預金の該当額を銀行の日銀当座預金勘定に振り替える。
銀行は戻ってきた日銀当座預金で再び国債を購入することができる。
この一連の流れの中で銀行は①で購入した国債を一度も売っておらず、⑤で戻ってきた預金で再び国債を購入できます。そして、日本銀行が民間銀行から国債を買い取ると、代金の支払いによって民間銀行が日本銀行に持つ当座預金が増えます。しかし、銀行券ルールにより、日本銀行が金融調節のための買入れを通じて保有する長期国債の残高の上限は、日本銀行券の流通残高以下に収めるという政策目標が定められていました。このルールは、すべての国債買入れやベースマネー全体に一定額の上限を定めるものではありませんでしたが、国債買入れという経路を通じてベースマネーを拡大する際の歯止めにもなっていました。その後、日本銀行は2013年4月に、物価上昇率2%を目指す「量的・質的金融緩和(QQE)」をスタートさせ、この銀行券ルールの適用を一時停止しました。従来の目安に縛られずに長期国債の買入れを増やし、日銀当座預金を含むベースマネーを大きく拡大する政策へ移ったのです。
ベースマネーの増加により景気が拡大すると、借入れや支出が増えて需要が強まります。需要が供給を上回る局面では物価上昇圧力が生じ、反対に支出が落ち込めば生産や雇用が縮小します。つまり、インフレとデフレは需要と供給のバランスの変化により起こります。金融政策はこうした変動に対応しますが、その効果が経済に広がるまでには時間がかかります。ただし、ベースマネーを増やせば、その分だけ物価が上がるわけではありません。物価は、お金がどのように使われ、需要の増加に生産がどれだけ対応できるかにも左右されます。需要が急に増えても、企業が原材料を仕入れ、生産し、商品を届けるまでには時間がかかります。必要な資金をすぐに使えないことも、供給を増やす際の制約の一つです。特に「国境を越える取引」では、決済の遅さや送金先に資金をあらかじめ置いておく負担が、企業の資金繰りを難しくする場合があります。
こうした資金の移動にかかる時間と費用の問題は、Rippleが掲げる「価値のインターネット」の目標とも一致します。景気循環を完全に消すことはできなくても、消費から末端の生産者(部品会社や農家など)へ資金が届くまでの「決済の遅れ」を短縮できれば、状況は改善します。資金繰りが早まることで、企業は需要の変化に合わせた供給を迅速に行えるようになり、需給のミスマッチを解消することができるからです。
では、価値の移動にかかる時間と費用を減らすために、何ができるのでしょうか。次章からは、Rippleという取り組みがどのように生まれ、何を変えようとしてきたのかを、その歴史とともに見ていきます。