ブラジルにおけるRipple事業の拡大と複合的な金融インフラの展開
国際送金の仕組みを提供する「Ripple Payments」は、送金元のシステムだけでなく、送金先の国に確実な「受け取りの経路(ラストワンマイル)」が整っていて初めて実用的な価値を発揮します。たとえば、米国の企業が資金を送る手続きを完了しても、ブラジルの受取先企業が現地通貨(ブラジルレアル)や必要な通貨で受け取れなければ、国際決済が完結したとは言えません。
法定通貨とデジタル資産を柔軟に組み合わせる製品群が拡充された2026年、Ripple社は南米の主要市場であるブラジルにおいて、包括的な事業拡大を発表しました。ここでは、同社の新しいソリューション群が現地の金融機関で具体的にどのように活用されているのかを見ていきます。
ブラジルの金融機関は何に使っているのか
2026年3月の発表において、Ripple社はブラジル国内における複数の導入企業と具体的なユースケースを公表しました。
Banco Genial:米ドルの払い出し業務にRipple Paymentsを活用しており、さらに暗号資産関連の資金移動においてステーブルコイン「RLUSD」を導入する計画を進めています。
Braza Bank:米ドル決済の効率化を目的としてRipple Paymentsを採用しました。また、これとは別の取り組みとして、ブラジルレアルに連動するステーブルコイン「BBRL」をXRP Ledger(XRPL)上で発行しています。
Nomad:ブラジルと米国を結ぶ国境を越えた企業間資金移動において、Ripple Paymentsの流動性ネットワークを活用すると説明されています。
ここで押さえておきたいのは、一口に「Rippleの利用企業」と言っても、米ドルの払い出し、国境を越えた企業間決済、ステーブルコインを用いた価値移転など、企業ごとに導入の目的や利用している機能が大きく異なるという点です。
現地の銀行や決済事業者は、「自社の顧客がどの通貨を、どのタイミングで必要としているか」というビジネス要件に合わせて仕組みを選択します。したがって、「Ripple Payments全体として複数のデジタル資産や法定通貨を扱える柔軟性があること」と、「個別の送金案件ごとに必ずXRPやRLUSDが使われているわけではないこと」は、明確に区別して理解しておく必要があります。
決済にとどまらない製品群の展開
今回の発表で注目すべき点は、Ripple社が送金・決済サービスだけでなく、デジタル資産の保管、ステーブルコイン、機関投資家向けの取引プラットフォーム、さらには企業財務の管理機能までをブラジル市場へ包括的に提供する方針を示したことです。
例えば、金融機関が顧客の暗号資産やトークン化資産を取り扱うには、高度な安全性を備えた保管環境と正確な取引記録が不可欠となります。Ripple Custodyは、そうした厳格な管理体制を構築するための技術基盤です。また、Ripple Primeは大口投資家向けの取引執行や清算機能を担い、Ripple Treasuryは企業の複雑な資金繰りや流動性管理を支援するサービスとして位置づけられています。
このように、同社の事業はもはや単なる「国際送金ネットワーク」という枠組みにとどまらず、機関投資家や金融機関向けの「総合的なデジタル金融インフラ」へと進化しており、ブラジルでの発表はその方針を如実に物語っています。
あわせて同社は、ブラジル中央銀行に対して仮想資産サービス事業者(VASP)のライセンスを申請する計画も公表しました。ただし、ここで示されたのはあくまで「ライセンスを申請する意向」であり、すでに免許を取得したことや、前述のすべての製品が現地で即座に本格稼働を開始したことを意味するわけではありません。金融サービスを合法かつ安定して運用するには、ブロックチェーン技術そのものが稼働するだけでなく、各国の法制度への準拠と現地の決済インフラとの接続が欠かせないためです。
世界全体の数値実績と現地の事例を読み解く
Ripple社の発表によると、2026年3月時点でRipple Paymentsの累計処理額は1,000億ドルを突破し、対応する市場は世界60カ国以上に達しています。
これらの実績値は、あくまで同社がグローバルに展開するサービス全体の累計です。ブラジル単独での取引高や、暗号資産を流動性として用いるODL(On-Demand Liquidity)のみの利用割合を示すものではない点には留意が必要です。
しかしながら、初期に掲げられた「銀行間の送金コストを削減する技術」という構想が、長年の開発と規制対応を経て、各国の金融機関や事業会社の日常的な基幹業務に組み込まれるまでに成長したことを示す確かな指標と言えるでしょう。
次の節では、このように現地で広がりを見せる決済・金融インフラ事業とは別に、Ripple社が2026年に打ち出した「AI(人工知能)」を活用した新たな取り組みについて詳しく見ていきます。