前章で見た通り、2023年7月の略式判決において、裁判所はRipple社によるXRPの販売を「誰に・どのように売ったか」によって明確に区別しました。暗号資産取引所を通じて一般の人が売買した「プログラマティック販売」などは証券法違反には当たらないとされた一方で、Ripple社が法人バイヤー、ヘッジファンド、およびODLの顧客企業などと直接契約書を交わして販売した「機関向け販売(Institutional Sales)」(計1,278件・約7億2,890万ドル分)については、「事前に当局への届出(登録)が必要だったのに、それを行わずに販売した(証券法第5条違反)」と判断されました。
では、違反とされたこの「機関向け販売」に対して、裁判所はRipple社にどのようなペナルティを命じるのでしょうか。翌2024年、訴訟は「具体的にいくらの罰金を科し、今後どのようなルールを命じるか」を決める最終段階(救済措置の審理)へと進みました。
救済措置の審理で争われた「3つのペナルティ」とは?
この審理でSEC(米証券取引委員会)が裁判所に求めた措置は、大きく分けて次の3つです。まずはそれぞれの言葉の意味を簡単に整理しておきましょう。
- 利益の没収(不当利得の返還)と利息:「ルール違反の販売で会社が得た利益を、利息もつけてそのまま吐き出しなさい」というお金の返還命令です(英語ではディスゴージメントと呼ばれます)。
- 民事制裁金(罰金):過去のルール違反に対するペナルティ(懲戒・抑止)として、国に支払う罰金です。
- 差止命令:「これから先、同じようなルール違反を二度と繰り返してはならない」と将来の行動を制限する裁判所の命令です。
このように、「違反で儲けた利益を取り上げるか(利益の没収)」「違反に対していくらの罰金を科すか(制裁金)」、そして「今後どんな行為を禁止するか(差止命令)」は、それぞれ別の基準で判断されます。
ここでSECは、利益の没収・利息・制裁金をすべて合わせて総額約19億5,076万ドル(約20億ドル=当時のレートで約3,000億円規模)という巨額の支払いを要求しました。これに対してRipple社側は「支払うべき制裁金は最大でも1,000万ドル以下である」と反論し、大きな注目が集まりました。
そして2024年8月7日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所のアナリサ・トーレス判事は最終判断(終局判決)を下しました。結論として、「利益の没収と利息」は0ドル(全面却下)となり、Ripple社には1億2,503万5,150ドルの民事制裁金の支払いと、将来の再違反を禁じる差止命令が命じられました。
| ペナルティの種類 | SECの要求額 | Ripple社の主張 | 裁判所の最終判決 |
|---|---|---|---|
| ① 利益の没収 (不当利得の返還) |
約8億7,631万ドル | 0ドル(対象外) | 0ドル(却下) |
| ② 判決までの利息 (判決前利息) |
約1億9,815万ドル | 0ドル(対象外) | 0ドル(却下) |
| ③ 民事制裁金 (罰金) |
約8億7,631万ドル | 1,000万ドル以下 | 1億2,503万5,150ドル |
| 支払額の合計 | 約19億5,076万ドル | 1,000万ドル以下 | 1億2,503万5,150ドル |
| ④ 将来への命令 (差止命令) |
未登録の機関向け販売等の禁止 | 命令は不要 | 今後の証券法第5条違反を禁じる差止命令 |
なぜSECが求めた約20億ドルが約1.25億ドルまで減ったのか?
SECが求めた約20億ドルのうち、93%以上にあたる金額が退けられたのには、大きく2つのわかりやすい理由があります。
理由1:買い手(法人・機関)が損をしていないため、「利益の没収」がゼロになった
SECの要求額の半分以上(利息を含めて約10億7,400万ドル)を占めていたのは、「利益の没収(不当利得の返還)」でした。この制度は本来、違反行為によって損をした被害者(購入者)にお金を返すことなどを目的としています。そのためアメリカの判例(上位の裁判所が定めた法解釈のルール)では、「購入した相手が実際に金銭的な被害(損)を受けたこと」をSECが証明できなければ、利益の没収は命じられないという決まりになっています。
ところが今回のケースでは、Ripple社と直接契約してXRPを購入した法人やファンドの多くは、市場価格よりも安い「割引価格」等で購入しており、損をするどころか利益を得ていました。SECは「特定の買い手だけに安く売ったせいで、他の購入者が高く買わされた可能性がある」と主張しましたが、トーレス判事は「それは推測にすぎず、買い手が実際に損をした証拠はない」と判断し、約10億7,400万ドルの請求を丸ごと却下しました。
理由2:詐欺のような悪質さがないため、罰金は「一番軽いランク」で計算された
次に「民事制裁金(罰金)」です。アメリカの証券法では、違反の悪質さに応じて罰金の重さが3段階(第1段階〜第3段階)に分かれています。もし「嘘をついて買い手をだました(詐欺)」「買い手に深刻な損害を与えた」といった悪質なケースであれば、最も重い第3段階の罰金が科されます。
しかしトーレス判事は、「今回の違反は事前の届出(登録)を怠ったという手続き上の違反であり、詐欺や不正な隠蔽はなく、買い手にも深刻な損害を与えていない」と認めました。そのため、3段階のうち最も軽い「第1段階」の基準を採用しました。そして、違反とされた機関向け直接販売の契約・取引件数(計1,278件)に対して、1件あたりの上限額(時期により約8万〜11万ドル強)を掛け算し、合計1億2,503万5,150ドルという金額を算出しました。
差止命令の内容:何が禁止され、何が禁止されていないのか?
1. なぜ差止命令が出されたのか(ODLの顧客企業との契約を巡る注意点)
お金の面ではSECの要求が大幅に退けられた一方で、「今後同じ違反をしてはならない」という差止命令については、裁判所はSECの求めを一部認めました。
冒頭で確認した通り、裁判所が定義した「機関向け販売(Institutional Sales)」には、投資ファンドだけでなく「ODLの顧客企業に対する直接販売」も含まれていました。そのためこの審理の中でSECは、「2020年12月に提訴された後も、Ripple社はODLの顧客企業に対して契約に基づくXRPの直接販売を続けており、これも未登録証券の販売にあたるため包括的に禁止すべきだ」と主張しました。これに対しRipple社は、「提訴後のODL契約では過去の契約にあったような転売制限などの条件を取り除いており、また米国外での販売や届出免除ルールに該当するため違反ではない」と反論しました。
トーレス判事は、救済措置命令において「提訴後の販売が証券法第5条に違反しているとは断定しない」とし、ODLの事業やXRPの利用そのものを禁止することは退けました。しかしその一方で、判決で指摘された一部の条件を変更することで直接販売を続けようとするRipple社の対応について、「略式判決の境界線を押し広げようとする姿勢は、いずれ一線を越える可能性を示している」と述べ、将来再び違反が起きる懸念があると指摘しました。そして裁判所は終局判決において、将来に向けた歯止めとして、「今後、適用可能な免除がない限り、当局への登録届出を行わずに証券(投資契約)を販売して証券法第5条に違反してはならない」という差止命令を下しました。
2. 誤解しやすいポイント:一般のXRP取引や送金利用は一切禁止されていない
「差止命令が出た」と聞くと、「XRPの取引や送金サービスまで制限されるのでは?」と心配になるかもしれませんが、そこは明確に分けて理解しておく必要があります。
- 取引所での売買や保有は対象外:この命令はあくまで「Ripple社(およびその役員や関係者)」に向けられたものです。私たちが暗号資産取引所でXRPを売買したり保有したりすることを制限するものでは一切ありません。
- 国際送金(Ripple Payments / ODL)での利用も対象外:米国外での適法な取引や、ルールを守った形での送金サービス利用を禁止するものでもありません。あくまで「アメリカの証券法ルールに違反する形での、届出なしの機関・法人向け直接販売」を繰り返すことだけを禁じる命令です。
2023年の略式判決で「取引所での一般向け売買は証券ではないが、書面契約による機関・法人への直接販売は違反である」という線引きが行われ、2024年8月のこの終局判決で「過去の違反に対する約1.25億ドルの制裁金と、将来の再違反を防ぐ差止命令」が決まりました。