海外にいる相手へお金を送るとき、私たちは銀行の窓口やスマートフォンのアプリに金額を入力します。しかし、受取人の口座に現地の通貨が届くまでには、目に見えない裏側でさまざまなやり取りが行われています。「送金の指示を伝える」「通貨を交換する」「銀行同士で実際に資金を動かす」といった複数の仕事がリレーのように続いているのです。本書は、こうした「一件の送金」のお話からスタートします。私たちが普段見慣れている操作の裏側で何が起きているのかを知ることで、Ripple(リップル)社が一体何を変えようと挑戦してきたのかが見えてくるはずです。
そのために、まず「お金」と「銀行」の基本的な仕組みについて一緒に考えていきましょう。たとえば、手元にある現金の「一万円」と、銀行口座の画面に表示される残高の「一万円」。これらは同じ価値を持っていますが、実は「誰に対してお金を請求できる権利なのか」という点で大きく異なります。この違いを理解すると、Rippleのルーツとも言えるライアン・フッガーが提唱した「お金とはIOU(借用証書)である」というユニークな考え方がスッと腑に落ちるようになります。銀行の預金がどのようにして生み出され、銀行同士がどのように支払いを清算しているのか。こうした金融の基礎を知ることが、のちに登場するRippleの複雑な仕組みをスムーズに理解するための大切な土台となります。
基礎を押さえたあとは、フッガーが考案した「RipplePay」の誕生から、ビットコインの登場、そして「XRP Ledger」の開発とRipple社の創業までを、時系列に沿って分かりやすくたどっていきます。ここで、本書を読み進める上で一つだけ意識していただきたい大切な区別があります。それは、「Ripple」は企業名、「XRP Ledger」は世界中の参加者が取引記録を共有するシステム(台帳)、「XRP」はその台帳上で使われる独自の暗号資産(仮想通貨)だということです。この三者は深く関わり合っていますが、決して同じものではありません。同じように、XRP Ledgerという台帳に備わっている「機能」と、Ripple社が顧客企業に提供している「製品」も、しっかりと分けて見ていきます。
物語が進み、銀行向けの技術が「RippleNet」へと発展していくと、「xCurrent」「xRapid」「xVia」といったアルファベットの製品名が登場します。しかし、これらの単語を丸暗記する必要はありません。それよりも、「銀行が送金する前に情報を確かめている場面」「暗号資産のXRPを使って瞬時に現地通貨を調達している場面」「企業が送金を依頼している場面」など、実際の利用シーンを思い浮かべてみてください。そうすることで、xRapidが「ODL」へ、そして現在の「Ripple Payments」へと、なぜ名称やサービスの提供方法が変わっていったのか、その理由が追いやすくなります。新しい名前が出てくるたびに、前の製品のどんな課題を引き継ぎ、そこに何が新しく加わったのかを一緒に確認していきましょう。
本書の後半では、アメリカ証券取引委員会(SEC)による提訴と裁判所の判断という重要な出来事を追いかけ、さらにRipple社による企業買収や新しい事業への展開についても見ていきます。訴訟の章では、「SECが何を問題として主張し」「Ripple側がそれにどう反論し」「裁判所が最終的にどのような判断を下したのか」を順番に整理して解説します。また、事業展開の章では、「計画の発表」「買収の完了」「製品の提供開始」「実際の顧客による利用」という異なる段階を区別しながら読み解いていきます。ニュースでよく目にする「企業評価額」や「決済処理額」といった大きな数字についても、それが具体的に何を数えたものなのか、本文中で丁寧に説明します。
金融やITの専門用語は、初めて登場する場所で、具体的な場面を交えながら分かりやすく解説します。もし途中で意味が分からなくなってしまったら、いつでも巻末の「用語集」と「年表」に戻って確認してみてください。本書は、最新の製品名や訴訟の結論だけを手っ取り早く暗記するための本ではありません。「お金を送る」という私たちの身近な行為を出発点として、創業者たちがどのような課題に出会い、Ripple社がどのような道筋を選んできたのかを、読者の皆様と一緒に一歩ずつゆっくりとたどっていくための本です。