「送金のメッセージ」「実際に動く資金」そして「通貨の交換」。前の二つの節で見てきたこれら三つの役割に対して、Rippleは最初から一つの完成した製品を用意していたわけではありません。その出発点にあったのは、「人々が互いに持っている『信用』をつなぎ合わせて、支払いの道筋を作ろう」というシンプルな発想でした。そこから「XRP Ledger」という仕組みが生まれ、Rippleという会社は、銀行や送金事業者が使うための製品を開発していくことになります。個人の信用関係から、大規模な国際決済の事業へ。この大きな変化の道のりを追っていくのが、本書の中心となるテーマです。
最初にあったのは「信用」のネットワーク
2000年代、カナダの開発者であるライアン・フッガーは、「RipplePay」という仕組みを構想しました。知人同士が「後で支払うよ」という約束を持ち、その関係をバケツリレーのようにつないでいけば、直接は知らない相手にも支払いを届けることができるのではないか。これが初期のアイデアでした。ここで出てくる「IOU」という言葉は、英語の「I owe you(あなたに借りがある)」の略で、誰かが別の人に価値を渡す約束、つまり借用書のようなものを指します。実は、私たちが普段使っている銀行口座の残高も、銀行から見れば「預金者にいつでもお金を支払う義務」ですから、IOUの一種と言えます。ただし、銀行には厳しい法律の規制やしっかりとした決済の制度があるため、個人の口約束と同じようには扱えません。
また、単に個人の信用がつながれば、必ずしもスムーズに支払いが通るわけでもありません。途中にいる人が、「誰を信用して、いくらまでなら立て替えを引き受けられるか」をあらかじめ決めておく必要があります。さらに、知人の間で成り立つこの仕組みを、銀行間の大規模な国際送金へと広げるためには、異なる通貨の交換、間違いのない支払い先の確認、そして業務上の重い責任についても考えなければなりません。RipplePayのユニークな着想は、のちの事業へと確かに受け継がれていますが、それがそのまま現在の「Ripple Payments」というサービスになったわけではないのです。
公開された「台帳」と「会社」は別のもの
2012年になると、誰が誰にいくら送ったかという取引と残高の記録を、参加者全員で共通して確かめられる「XRP Ledger」というシステムが稼働を始めました。よく耳にする「XRP」とは、この台帳の仕組みの中に最初から組み込まれている独自の資産のことです。一方で「Ripple」というのはあくまで企業の名前であり、金融機関や一般企業に向けて決済のための製品を提供している会社を指します。台帳が世界中に「公開されている」ということは、Ripple社の顧客だけが使える閉じた内部データベースではない、ということを意味しています。最初のシステムを作った人たちと、その後に製品を開発して販売している会社の役割を分けて考えると、似たような名前の用語もすっきりと整理できるはずです。
2017年にRipple社は、銀行向けのシステムである「xCurrent」、XRPを活用する「xRapid」、そして企業が決済ネットワークに接続するための「xVia」という3つの製品群を発表しました。その後、xRapidは「On-Demand Liquidity(ODL)」というサービスへと発展していきます。さらに2023年には、これらを統合した主要な国際決済サービスが「Ripple Payments」として新しく発表されました。似たようなアルファベットの名前が次々と出てきて少し難しく感じるかもしれませんが、当時の利用者が誰でどんな役割だったのか、そして発表から実際にビジネスで使われるまでの順番を追っていけば、その進化の過程が自然と見えてきます。
この本で確かめていくこと
Rippleのこれまでの歩みには、開発者たちによるシステムの設計から始まり、顧客となる企業との提携、資金調達、国の規制当局との対立、そして企業買収による事業の拡大など、さまざまな出来事が重なり合っています。発表された新しい製品は、一体いつ、誰の送金に実際に使われたのでしょうか。ニュースで報じられる企業の評価額や決済の処理額は、本当は何を示す数字なのでしょうか。本書では、これらを出来事の順番に沿って丁寧に確かめていきます。それは、表面的な宣伝文句や一部の批判だけで安易に成功や失敗を判断するのではなく、本当の仕組みと「社会で実際にどう使われているか」という事実をもとに考えていきたいからです。
続く次章では、いったんRippleの話から離れて、私たちが日常的に使っている「お金の仕組み」に立ち返ってみます。あなたの銀行口座に表示されている「一万円」という数字は、そもそも何を表しているのでしょうか。その答えを知ることで、フッガーが考えたIOU(約束)も、現代の銀行の送金も、そしてXRPが果たす役割も、ぐっと読み解きやすくなるはずです。お金の基本を押さえたうえで、いよいよ創業期の個性豊かな人物たちが登場する時代へと進んでいきましょう。