新しい送金方法の真価は、技術そのもののスペックだけでなく、それを実際に利用する事業者の現場業務(実務)にどのような変化をもたらすかという点に現れます。
従来の国際送金では、たとえば米国からメキシコへの送金で、送金事業者が受取側の口座にメキシコペソを事前に置く方法のほか、コルレス銀行や第三者の流動性供給者を通じて現地通貨を手当てする方法がありました。現地通貨を事前に置く方式では、その資金を置く主体に待機資金の負担と預金先銀行に対する信用リスクが生じ、為替変動リスクも負い得ます。暗号資産XRPをブリッジ通貨として活用するプロダクト「xRapid」を採用した事業者は、この送金資金の準備方法そのものを根本から変えようと試みました。
2018年の商用発表に載った初期事業者
2018年10月、Ripple社がxRapidの商用提供開始を発表した際、初期パートナーとして次の3つの組織が公表されました。
- MercuryFX:国際送金を手がける事業者
- Cuallix:米国からメキシコへの送金を扱う金融サービス企業
- Catalyst Corporate Federal Credit Union:全米の信用組合向けに金融サービスを提供する組織
この商用提供の発表に具体的な組織名が掲載された事実は、構想段階から実用フェーズへ進んだことを示す重要な節目となりました。単なる実験や研究の枠を超え、顧客向けの本番運用を見据えて実際に参加する事業者が現れたからです。
ただし、注意しておきたいのは、発表時点で各社の導入段階が同一ではなかったという点です。Ripple社の当時の開示資料によれば、それぞれのステータスは次のように説明されていました。
- MercuryFX:その四半期内に商用送金を開始する予定
- Cuallix:先行する実証実験に参加した事業者
- Catalyst Corporate Federal Credit Union:本番契約を結び、サービス開始に向けた準備を進めている段階
また、「商用発表に社名が挙がった」からといって、その事業者が扱うすべての送金が即座にXRP経由へ切り替わったわけではありません。金融事業者は送金先の国や通貨ペア、コスト環境に応じて複数の決済ルートを使い分けます。そのため、実際にどの程度の規模や範囲で利用されたのかについては、当時の発表だけでなく、後年の資料や実績値も照らし合わせて冷静に確かめる必要があります。
2019年のMoneyGramとの提携
初期の導入事例に続き、より大規模な展開として注目を集めたのが2019年6月に発表された大手送金事業者「MoneyGram」との戦略的提携です。
世界的な送金ネットワークを持つMoneyGramが、国際送金と外国為替決済のプロセスにxRapidを活用する計画を公表したことは、Ripple社にとって事業上の大きなマイルストーンとなりました。
一方で、この提携の背景を正しく読み解くためには、ビジネス面での全体像を捉えておくことが不可欠です。この発表にはRipple社によるMoneyGramへの出資など、相互の商業的な契約関係が含まれていました。「大手企業が採用した」という表現だけに注目し、プロダクトの技術的な優位性のみに基づいた純粋な選定であると単純化してしまうのは早計です。技術の実力と、資本関係を伴う商業的パートナーシップの両面を客観的に見極めなければなりません。
この事例を評価する際には、提携発表の内容、特定の送金ルートで実際に処理された取引の実績、そしてその後の両社の関係性の推移までを、時系列に沿って客観的に追う姿勢が求められます。
RippleNetの参加名簿を読み解く際の注意点
Rippleの普及状況を追う上で、公開されている参加者リストを読み解く際にはいくつかの重要な留意点があります。
第一に、当時の「RippleNet」の顧客一覧には、xRapid(XRP)を利用せず、xCurrentなどで銀行間の情報交換と決済を行う銀行や送金事業者も数多く含まれていました。したがって、「Rippleのネットワークに参加している」という事実だけをもって、その組織がXRPを利用していると判断することはできません。
xRapid(および後のODL)の実際の利用状況を特定したい場合は、Ripple社や利用企業自身が「XRPを用いたオンデマンドの流動性供給の仕組みを使っている」と明確に言及している一次資料を確認するのが確実です。
単に「Rippleを使っている」という言葉だけでは、それが銀行間の情報交換と決済を連動させるxCurrentなのか、XRPを活用するxRapidなのか、あるいはその後にブランド統合されたODL(On-Demand Liquidity)なのかを判別することは不可能です。
Rippleの普及度合いを正確に把握したい場合は、以下の3つの指標を明確に区別して整理することが大切です。
- ネットワーク全体の参加機関数(製品を問わず提携・接続している組織の総数)
- 製品ごとの導入顧客数(xRapid / ODLなど、特定の仕組みを契約している組織の数)
- 実際に処理された送金規模(その経路を通じて実際に動いた具体的な取引量や金額)
これらを混同せずに切り分けて確認することで、プロジェクトの進捗と実需の広がりを客観的に見極めることができます。