リーマンショックが示した外為決済リスク

XRP——
BTC——
ETH——
SOL——
FLR——
XLM——
日本円・24時間騰落率|データ:bitbank|取得中

国際送金(海外への送金)では、「送金してください」という指示が相手に届くだけでは不十分です。異なる通貨同士の支払いが、最後まで無事に完了する必要があります。ここでは、外国為替取引(外為取引)において「自分だけが通貨を支払ってしまい、相手から受け取れない」という危険性と、それを防ぐための仕組みについて見ていきましょう。

二つの通貨の支払いが連動しない危険

たとえば、日本の銀行がアメリカの銀行に「円を売って、ドルを買う」という取引をするとします。このとき、日本の銀行は相手側の円口座へ円を支払い、アメリカの銀行は日本の銀行のドル口座へドルを支払います。しかし、この二つの支払いは、日本とアメリカの決済システムでそれぞれ別々に処理されます。

もし、日本の銀行が「円の支払い」をキャンセルできなくなった後、アメリカからドルを最終的に受け取るまでの間に相手側の支払いがストップしてしまったらどうなるでしょうか。円だけを渡して、ドルを受け取れないおそれがあります。日本とアメリカの時差によってこのタイムラグ(空白の時間)はさらに長くなることもありますが、危険の根本的な原因は「二つの支払いが連動していないこと」そのものにあります。

このように、一方の通貨を支払ったのに、もう一方の通貨を受け取れない危険性のことを「外為決済リスク」といいます。実際に1974年、取引相手が当時の西ドイツにあったヘルシュタット銀行にマルク(当時のドイツの通貨)を支払った直後に同銀行が破綻し、受け取るはずだった米ドルが支払われないという事件が起きました。この歴史的な出来事にちなんで、片側だけの支払いによって資金を丸ごと失ってしまう危険性のことを「ヘルシュタットリスク」とも呼んでいます。

PvP決済は何を防ぐのか

この恐ろしい危険を防ぐために生み出された仕組みが、「PvP(支払対支払:Payment versus Payment)」です。

先ほどの例で言えば、円が最終的に相手に渡ることと、ドルが最終的に自分に渡ることを、システム上でしっかりと結び付けます。つまり、「アメリカの銀行からドルが支払われない限り、日本の銀行の円だけが相手に渡って決済が終わることはない」という安全な状態を作るのです。

この仕組みを用いて、専門の決済機関であるCLS銀行は2002年にPvP方式の外為決済サービスをスタートさせました。CLSとは多通貨同時決済を意味する「Continuous Linked Settlement」の略で、CLS銀行は外為決済において中央銀行のような役割を果たす各国中央銀行に口座を持つCLS決済のための銀行です。CLS銀行では、売渡通貨と買入通貨の決済を同時に行うPvP決済によって外為決済を行うことで、ヘルシュタットリスクを防止しています。

ただし注意が必要なのは、PvP決済はあくまで「片方だけが最終的に支払いをして損をする危険」を防ぐ仕組みだということです。相手の資金が不足している場合でも、「予定どおり必ず取引が成立する(魔法のように相手のお金が湧いてくる)」という意味ではありません。

リーマン・ブラザーズ破綻時の違い

2008年に起きたリーマン・ブラザーズの破綻時には、このPvP決済の仕組みを使っていた取引と、使っていなかった取引で、結果に大きな違いが表れました。

当時、ドイツの復興金融公庫(KfW)は、通貨スワップ(一定期間、異なる通貨を交換する取引)でリーマン側にユーロを支払いましたが、受け取るはずだった米ドルを受け取れませんでした。実はこの取引は、当時CLSのPvP決済サービスの対象外だったのです。一方で、CLSの仕組みを利用して行われていたリーマン関連の外為取引は、安全に決済が完了していました。KfWが巻き込まれたこの事件は、PvP決済の対象外の取引において、ヘルシュタットリスクが現実になってしまった典型的な例と言えます。

金融の世界では、普段は「起こる可能性が極めて低い」と思われていても、万が一発生したときには極端に大きな損失をもたらす危険性のことを「テールリスク」と呼びます。そして、そうした予測困難で重大な危険が実際に起きたときの事象を、めったに見つからない黒い白鳥に例えて「ブラックスワン」と呼ぶことがあります。リーマン・ショックは、まさにその影響の大きさを実感させる出来事でした。ただし、当時の金融システムに潜む問題を事前に指摘する声もあったため、「誰にとっても完全に予測不可能な事態だった」と断定できるものではありません。

KfWの事例は銀行同士の取引であり、一般の私たちが生活で行う国際送金そのものではありません。それでもこの出来事は、国境を越えてお金を動かす際には、「送金の指示が伝わること」と「実際のお金の受け渡しが終わること」をしっかりと区別し、決済のルートを確認することがいかに重要であるかを教えてくれます。

次の節では、Ripple社が銀行向けの新しいテクノロジーを使って、送金情報のやり取りと実際の支払い処理をどのように改善しようとしたのかを見ていきます。

出典・参考資料