Ripple社が企業向けのサービスを拡大していく一方で、その基盤技術である「XRP Ledger」自体の機能も日々進化しています。通常、暗号資産の取引所にある「注文板(オーダーブック)」では、売り手と買い手の希望条件がぴったり一致することで、初めて資産の交換が成立します。しかし、「今すぐ交換したいのに、ちょうどいい条件の相手がすぐに見つからない」という場合、別の方法で取引価格を決めることはできないでしょうか。そこで登場したのが、2024年に有効化された「自動マーケットメーカー(AMM)」という新しい仕組みです。
資産の「プール」から価格を自動で提示する
AMMの仕組みでは、あらかじめ2種類の資産をひとまとめにして「プール(資金の貯水池のような場所)」に預けておきます。そして、定められた計算式を使って、自動的に交換価格を算出・提示します。利用者は、特定の相手を探すのではなく、このプールそのものを相手にして直接資産を交換することができます。
一方、このプールに自分の資産を提供してくれた人には、その見返りとして「プールのどれくらいを自分が持っているか」を証明するトークンが渡されます。従来の注文板が「人」と「人」の注文を直接結びつけるのに対し、AMMは「プールに貯まった資産」を利用します。これにより、XRP Ledger上の分散型取引所(DEX:特定の中央管理者がいない取引所)に、新たな取引の通り道(流動性)が加わることになりました。
ただし、交換価格はプールの残高バランスや、一度に取引される規模によって常に変動します。そのため、プールに資産を預ける人は、価格変動による損失リスクなどを負うことになります。「自動」という言葉の響きから、「何もしなくても確実に利益が保証される」と誤解しないよう注意が必要です。
ここで最も重要なのは、利益が出ることではなく、「XRP Ledgerというシステム上で資産を交換するための選択肢が新しく増えた」という事実です。
提案から有効化まで
このAMMという機能は、実は2022年に最初の提案が行われました。その後、2024年1月から3月にかけて「バリデータ(取引が正しいかを承認する役割を持つ参加者)」たちによる投票が行われ、同年3月になってようやく実際に有効化されました。では、なぜアイデアが発表されてから、ネットワークの新しいルールとして実際に使えるようになるまで、これほどの時間がかかったのでしょうか。
XRP Ledgerでは、新しい機能のプログラムが開発・公開された後、バリデータたちが「アメンドメント(仕様変更の提案)」を受け入れるかどうかの投票を行います。そして、信頼されているバリデータのうち「80%を超える賛成票」が「2週間連続」で集まって、初めて新しいルールとしてネットワーク全体で有効になるという、厳格な仕組みを持っているからです。
つまり、一企業であるRipple社が新しい機能を開発して発表することと、公開されたネットワークを支えるバリデータたちが新しいルールを有効にすることは、まったく別のプロセスなのです。したがって、AMMという便利な機能がXRP Ledger上で使えるようになったからといって、Ripple社が提供する送金サービス(Ripple Paymentsなど)のすべての取引が、自動的にAMMを経由するようになるわけではありません。
このように、暗号資産の世界を正しく理解するためには、「XRP Ledgerというシステム上で技術的に可能になったこと」と、「Ripple社という企業が実際のビジネスとして提供しているサービス」を、しっかりと分けて捉えることがとても大切です。