XRPの販売をめぐる法的な争いは、2020年12月に具体的な訴訟へと発展しました。この裁判では、いったい誰が訴えられ、誰が弁護を担ったのでしょうか。
原告(訴えを起こした側)は米SEC(証券取引委員会)であり、被告(訴えられた側)はRipple社と、同社のラーセン氏、ガーリングハウス氏の2名でした。ラーセン氏はRipple社の創業メンバーであり、経営の初期段階でCEO(最高経営責任者)を務め、その後は取締役会長となった人物です。一方のガーリングハウス氏は、後にCEOを引き継ぎました。会社と役員は同じ被告の立場ですが、SECからの請求内容は完全に同じというわけではありません。裁判を理解する上では、「会社によるXRP販売の登録義務違反」「役員個人による販売」、そして「会社の違反行為に対する役員の幇助(ほうじょ=手助け)責任」を分けて考える必要があります。実際、2023年の判断で会社側の違反が一部認められましたが、それだけで直ちに役員2名の幇助責任が確定したわけではありませんでした。
第一審を担当したのは、アナリサ・トーレス連邦地裁判事です。トーレス判事は後に「略式判決(正式な裁判手続きの一部を省略して下される判決)」を下し、その後の救済措置(罰金などの対応)を決定しました。また、裁判が進む中での「証拠開示」をめぐる個別の申し立てにおいては、サラ・ネットバーン連邦治安判事が重要な役割を果たしました。アメリカの連邦地裁では、治安判事が証拠開示などの手続き上の争いを担当することがよくあります。ネットバーン判事は、暗号資産界隈で注目された「ヒンマン・スピーチ」に関連する文書の開示をめぐり、SEC側が主張した秘匿特権(情報を公開しなくてもよい権利)がどこまで認められるかを慎重に検討しました。ただし、ここで注意したいのは「文書の開示を命じること」と「XRPの販売が法的に問題ないかを最終判断すること」は、まったく別の役割だということです。
一方、Ripple社の社内法務を率いたのがスチュアート・アルデロッティ氏です。彼は2019年に法務責任者として入社し、のちに最高法務責任者(CLO)として公の場で多くの発言を行いました。アルデロッティ氏は、Ripple社としての訴訟方針や、SECの主張に対する反論を世の中に説明する立場にありましたが、あくまで当事者側の人物であり、裁判所の客観的な判断を示す立場ではありません。また、裁判所に提出する書面を実際に作成する「外部の弁護士」と、「社内の法務責任者」の役割も分けて考える必要があります。アルデロッティ氏からの発信は、Ripple社側の見解や主張を知るための貴重な材料にはなりますが、法的な結論を正しく確認する際には、必ず裁判所の判決文や命令を優先して読み解くようにしましょう。
さらに、Ripple社の外部代理人(弁護士)には、メアリー・ジョー・ホワイト氏やアンドリュー・J・セレスニー氏といった人物も名を連ねました。ホワイト氏は元SEC委員長、セレスニー氏は元SEC執行局長という経歴の持ち主です。2021年1月11日の裁判記録には、この二人がRipple社側の代理人として出廷通知を提出したことがしっかりと記載されています。かつて規制当局を率いたトップが、訴えられた企業の弁護に加わったことは世間の大きな関心を集めました。しかし、「元SECだから内部情報を利用したのではないか」「裁判所の判断に特別な影響を与えたのではないか」と、経歴だけを理由に推測することはできません。この裁判において、両氏はあくまでRipple社の代理人として活動しており、SECの代理人ではなかったという点に注意が必要です。
裁判の記録を見ると、Ripple社側にはほかにも、リード・フィゲル氏、リサ・ゾーンバーグ氏、アンドリュー・ゴールドスミス氏、クリストファー・フォード氏、ジョイ・グオ氏など、多くの弁護士の名前が登場します。これは、訴訟が長期化するにつれて、書面の作成、証拠開示、口頭審理、控訴といった膨大な手続きを、多数の弁護士がチームで分担して進めるためです。ここで個々の弁護士の名前を挙げるのは、ある発言が「Ripple社の公式発表」なのか、それとも「代理人による裁判上の法的な主張」なのかをしっかりと見分けるためです。書類に提出者として名前が載っているからといって、「その弁護士が一人で事件の全体方針を決めた」と解釈するのは避けましょう。なお、対するSEC側でも、提訴発表の時点で訴訟担当として、ホルヘ・テンレイロ氏、デューガン・ブリス氏、ダフナ・ワックスマン氏、ジョン・ダニエルズ氏らの名前が示されています。
この裁判の大きな特徴として、正式な被告ではない「一般のXRP保有者」が関わった点も挙げられます。ジョン・E・ディートン弁護士らは、SEC側の主張があまりに幅広く、「Ripple社から直接買っていない一般の人々の保有や取引にまで影響が及んでしまう」と考え、保有者たちの立場を裁判所に届けようと動きました。これに対し、裁判所は2021年10月4日、6人のXRP保有者が「当事者」として裁判に直接介入することは認めませんでしたが、「法廷助言者(アミカス・キュリエ)」としての限定的な参加を許可しました。法廷助言者とは、原告や被告といった訴訟の当事者ではなく、裁判の争点に役立つ専門的な意見や見方を、意見書として提出する第三者の立場を指します。この立場を明確に区別しておくことで、「保有者の声が裁判に届いたこと」と「保有者が訴訟そのものを直接動かしたこと」を混同せずに読み解くことができます。
ディートン氏らが裁判で主張したのは、「XRP保有者がXRPを購入した理由や利用方法は、決して一つに決めつけられない」という重要な問題提起でした。実際、Ripple社の宣伝を見て投資目的で買った人もいれば、実用的な送金や通貨交換の手段として入手した人もいますし、Ripple社とは全く無関係な相手から買った人もいます。ここで注意したいのは、裁判所が保有者側の参加を認めたからといって、その命令をもって「SECの主張が正しいかどうか」を確定したわけではないということです。これはあくまで、「当事者以外にも広く影響が及ぶ事件において、どの範囲まで第三者の意見を聞き入れるか」という手続き上の判断にすぎません。そのため、後に出された略式判決についても、「すべての保有者の購入動機が一律に同じである」と認定した判決として読むべきではないのです。