RippleNetとODLの広がり

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商用化を迎えた後のRipple社の送金事業について、「顧客」「対応する送金経路(回廊)」「ODLの利用実態」という三つの角度から分かりやすく紐解いていきます。

RippleNetが担う部分

「RippleNet」という名称は、銀行や資金移動業者が国境を越えた支払いを行うためのネットワーク全体を指す言葉として使われてきました。第6章で確認した「xCurrent」「xRapid」「xVia」は、2017年時点でRipple社が顧客の多様な課題に合わせて提示した製品群です。

それぞれの役割を振り返ると、次のようになります。

  • xCurrent:銀行同士が送金情報や条件を照合し、ILPを用いて台帳間の決済を連動させる仕組み
  • xVia:企業の財務部門や利用者がネットワークへ接続するための標準的な窓口(API)
  • xRapid:暗号資産XRPをブリッジ通貨として用い、現地の流動性をオンデマンドで調達する仕組み

このように役割が明確に異なるため、これらをひとくくりに「Rippleが導入された」と表現してしまうと、顧客が実際にどの製品を採用したのかが見えなくなってしまいます。

2018年に入ると、実証実験からいよいよ商用利用への移行が注目されるようになりました。同年のxRapidの試験運用に関し、Ripple社は「送金全体にかかる時間には、暗号資産交換所での売買や現地の決済ネットワークでの処理時間も含まれるため、XRP Ledger(台帳)上の処理時間だけが利用者の待ち時間になるわけではない」と説明しています。

これは非常に重要な視点です。たとえXRPそのものが台帳上を数秒で移動したとしても、送金人が自国の法定通貨を持ち込んでから、交換所でXRPを売買し、受取国の銀行や送金業者から現地通貨で現金や口座へ払い出されるまでのプロセスには、既存の仕組みが介在します。つまり、「新しい暗号資産技術が短縮・改善できる部分」と、「既存の金融インフラや規制に頼らざるを得ない部分」を切り分けて評価する必要があるのです。

翌2019年、xRapidは「On-Demand Liquidity(オンデマンド流動性、略称ODL)」という新たな名称で呼ばれるようになりました。Ripple社の「2019年第3四半期市場レポート」でも、ODLは「旧xRapid」であると明記されています。

また、同年1月にはRippleNetの顧客数が200社を超え、11月には300社を突破したと発表されました。ここで注意したいのは、「RippleNetの顧客数」と「ODLの利用者数」は決してイコールではないという点です。事実、11月の発表時点でODLの利用契約を結んでいたのは「20数社」にとどまっていました。「ネットワークへの参加」「実際の送金処理」「XRPを活用したODLの利用」は、それぞれ異なる導入段階であることを理解しておく必要があります。

ODLが担う部分

ODLの最大の狙いは、海外送金を手がける事業者が、送金先となる国にあらかじめ大量の現地通貨を預けておく(いわゆる事前資金調達/ノストロ口座への滞留)負担を解消することにあります。

送金が発生したその瞬間に、自国通貨でXRPを買い、受取側で即座に現地通貨へ換金することで、必要な通貨を必要なタイミングで手に入れる(オンデマンドで調達する)仕組みです。初期の事業展開では、まず送金需要の大きい「米国からメキシコ」および「米国からフィリピン」という送金経路を中心に整備が進められ、2019年の発表ではオーストラリアへの拡大も言及されました。

ここで鍵を握るのが「送金経路(コリドー)」という概念です。たとえサービス自体の提供が始まっても、世界中のあらゆる通貨ペアや送金先で、常に十分な売買流動性が確保されているわけではありません。送金がスムーズに成立するかどうかは、その経路における取引環境に大きく左右されます。

このODLの実用化を象徴する代表例が、大手送金事業者MoneyGramとの関係でした。Ripple社は2019年6月にMoneyGramとの戦略的提携を発表し、xRapid(後のODL)を用いた国境を越える支払いおよび為替決済を中核に据えると説明しました。これは、一般顧客向けの送金業務にXRPを組み込む具体的なビジネスモデルとして大きな注目を集めました。

ただし、提携が発表されたからといって、同社のすべての送金がXRPを経由したわけではありません。実際にXRPが使われた取引の割合や対象となる送金経路は時期や市場環境によって変動します。したがって、両社間の資本提携関係そのものと、送金ソリューションとしての実需や性能は、分けて客観的に見る必要があります。

2020年以降、Ripple社はODLを送金会社の運転資金や資金繰りの支援と結びつけて打ち出すようになります。同年10月には「Line of Credit(信用枠供与)」の提供を開始し、ODLを利用する顧客がXRPによる決済に必要な資金をその場で調達できるようにしました。

さらに2021年には、従来の「法定通貨 → XRP → 現地法定通貨」という往復の流れだけでなく、顧客自身の暗号資産ウォレットから直接XRPを送出する形態も提示されています。これは単なる名称の変更にとどまらず、参加できる事業者の属性や資金調達手段の幅を広げるための戦略的な進化でした。

異なる成長指標をどう読むか

Ripple社の事業拡大を示すデータに接する際は、それが「いつの時点の」「どの指標か」を正確に見極めることが欠かせません。

Ripple社は2022年末時点で、暗号資産を用いた支払いの払い出し先市場が「約40市場」に達したと説明しています。また同レポートでは、RippleNetの立ち上げ以来の累計処理額が約300億ドル、取引件数が約2,000万件に達し、2022年における支払いの約6割がODLを経由したと公表しました。

これらはすべてRipple社の公式発表値ですが、「顧客数」「取引件数」「払い出し市場数」はそれぞれ全く異なる物差しです。例えば、2019年時点の「顧客数300社」と2022年時点の「払い出し先40市場」を横並びにして、同じ単位で成長率を割り出すことはできません。

さらに事業環境の面では、2020年末に米証券取引委員会(SEC)がRipple社らを提訴し、XRPの販売をめぐる法的な争いが勃発します。この裁判の詳しい争点については後の章で詳しく解説しますが、送金事業の歩みを振り返る上でこの出来事を無視することはできません。市場や提携企業にとって、送金経路の技術的な優位性だけでなく、法的な位置づけやコンプライアンス上のリスクもまた極めて重要な判断材料となったからです。

そうした逆風下にあっても、Ripple社は2022年を通じてODLの新規市場やパートナーシップの拡大を発表し続けました。「事業としての成長発表」と「法的リスク」が同じ時間軸の中で並行して進んでいたという事実は、続く章で取り上げる訴訟の影響を立体的に理解する上で欠かせない前提となります。

最後に改めて整理すると、「RippleNetの利用拡大」が、そのまま「公開台帳であるXRP Ledger上のすべての取引増加」を意味するわけではありません。

  • RippleNet:金融事業者向けの決済・通信ネットワーク
  • ODL:XRPを活用して流動性を調達するソリューション
  • XRP Ledger:誰でもアクセス可能な分散型パブリック台帳

参照する資料がこの三つのうち「どの領域をカウントしているのか」を明確に区別することが、情報に惑わされないための第一歩です。これらを踏まえた上で、次節ではRipple社のXRP保有とエスクローによる管理を確認します。

出典・参考資料