前節で触れた会社の名前は、設立からの数年間で何度も変わりました。NewCoin、OpenCoin、Ripple Labs、そして現在のRipple。このように改名が続くと、まるでいくつもの別々の企業が次々に現れたかのように思えるかもしれません。しかし実際には、ひとつの同じ事業が、技術の進歩や市場のニーズに合わせて看板を掛け替えてきた歴史なのです。
この歩みを正確に理解するために、まずは「最初に台帳が動いたのが2012年6月であり、会社が作られたのはその後の9月だった」という、出来事の順番から確認していきましょう。

台帳が先、会社が後
発端となったのは、2011年に3人の開発者が作り始めた台帳(分散型レジャー)でした。開発が進み、2012年6月にはネットワークが実際に稼働し始めます。
そして、このネットワークの利用を広く社会へ広げていくために、同年9月に設立された会社が「NewCoin」でした。同社は間もなく「OpenCoin」へと名前を改め、CEOにはクリス・ラーセンが就任します。
なぜ台帳があるのに、あえて会社を作る必要があったのでしょうか。誰でも使えるオープンなソフトウェアとして公開するだけでは、銀行と正式な契約を結んだり、取引先の本人確認を行ったり、システムの運用を支え続ける専任スタッフを雇ったりすることはできません。つまり、「台帳という技術の種を、実際の金融現場で安心して使える製品へと育てること」こそが、新しく生まれた会社の重要な役割となったのです。
「Ripple」という名前が増えた理由
当時の資料を読むと、少し混乱しやすい点があります。「Ripple」というひとつの言葉が、プロジェクト名、台帳、ネットワーク、取引プロトコル(通信ルール)、さらには暗号資産そのものなど、いくつもの異なる対象を指して使われていたためです。
そのため、「会社の名前はOpenCoinなのに、技術やシステムはRippleと呼ばれている」という状態が生じ、初めて説明を受ける銀行などの取引先にとっては、両者の関係が非常に分かりにくかったはずです。XRPLの公式な歴史資料(XRPL公式史)でも、取引先から「会社とRipple技術の違いは何なのか」と度々尋ねられたことが、2013年に会社名を「Ripple Labs」へと変更した大きな理由として挙げられています。その後、会社名はよりシンプルな「Ripple」へとさらに短縮されました。
現在であれば、運営組織としての「Ripple社」、台帳システムとしての「XRP Ledger」、そしてそこで流通する資産としての「XRP」と呼び分ければ、すっきりと整理できます。しかし、2012年当時の古い記事や資料を読む際に、この現在の使い分けをそのまま当てはめてしまうと、「当時の人々がその言葉で何を指していたのか」を読み誤ってしまいます。
そのため本書では、過去の資料を紹介する際には当時のオリジナルの呼び名をそのまま残しつつ、その言葉が具体的にどの対象を指しているのかをその都度補足して解説していきます。
改名と技術変更は別
ここで押さえておきたい大切なポイントは、「会社の看板が変わっても、台帳の残高が消えたり、XRPが新しく発行し直されたりしたわけではない」ということです。
会社という法人の名称変更やブランドの刷新と、独立して動いている公開台帳のソフトウェアが改良されていく過程は、まったく別のレイヤーで進んでいます。会社が変わるたびにシステムがゼロから作り直されたわけではありません。
次節では、この理解をさらに深めるため、「台帳」「資産」「会社」という3つの主語を明確に切り分け、それぞれ誰が何を動かしてきたのかを具体的に見ていきましょう。