XRP Ledgerの開発とXRPの誕生

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ビットコインが膨大な計算の競争によって取引の履歴を守っているとすれば、「まったく別の方法で、みんなの取引履歴を一致させることはできないのだろうか?」という疑問が浮かぶかもしれません。

2011年から、デイビッド・シュワルツ、ジェド・マケーレブ、アーサー・ブリットの3人が中心となって進めた「XRP Ledger」の開発は、まさにこの疑問に答えるためのものでした。シュワルツは分散システムと暗号技術の経験が豊富な技術者、マケーレブは初期のビットコイン関連事業に関わった著名な開発者、そしてブリットは優秀なソフトウェア開発者です。彼らによるこの新しい「台帳」づくりは、後に会社が立ち上がって送金向けの製品を販売するよりも前の段階から、すでに始まっていました。

3人の開発者と、新しい台帳の役割

XRP Ledgerは、2012年6月までに稼働を始めました。この台帳には、誰がいくら持っているかという「口座の残高」と「取引の結果」が記録されていきます。しかし、誰かが送金の手続き(署名)をしただけでは、まだネットワークの参加者全員が同じ結果を共有しているとはいえません。

そこで、「バリデータ(検証者)」と呼ばれる複数のサーバーが取引の候補をチェックし、みんなで共通のルールに基づいて「これで間違いない」と合意した結果だけを、次の正式な台帳として記録します。同じお金を二重に使ってしまう「二重支払い」を防ぐという目的はビットコインと同じですが、ビットコインのようにブロックを作るための「計算競争(マイニング)」を行わないという点が大きな特徴です。

これを「分散型台帳」と呼ぶのは、Ripple社の1台のコンピューターだけに原本が置かれているわけではないからです。世界中で独立して動いている複数のサーバーが、それぞれ台帳のコピー(写し)を持ち、互いにデータの更新が正しいかを検証し合っています。もちろん一般の利用者も記録を見ることはできますが、すべての人がバリデータ(検証サーバー)を運営しなければならないわけではありません。このように、システムそのものが特定の企業の内部システムではないため、「会社」と「台帳」は分けて考える必要があります。

XRPは「誰かの借用証書(IOU)」ではない

この台帳の中で使われる「XRP」は、最初から台帳に組み込まれている専用の資産(ネイティブ資産)です。たとえば銀行預金なら「銀行に対して日本円を引き出す権利」を持っていますが、XRPはそうした「誰かに対する借用証書(権利)」を表すものではありません。

主に台帳を利用する際の手数料として使われ、後には異なる国の通貨同士を交換する際の「橋渡し」となる資産としても活用されるようになります。また、XRPの総量は最初の台帳が作られた時点ですべて設定されており、ビットコインのように計算競争の報酬として新しく発行される仕組みもありません。第2章で見たIOUとの違いは、受け取るものが「誰かの支払い約束」なのか、それとも台帳上の資産そのものなのかにあります。

銀行預金やXRP Ledger上の従来型の発行トークン(IOU)を持つ人は、その発行者が約束どおりに支払ったり償還したりできるかという信用リスクを負います。台帳に残高が記録されていても、発行者が約束を履行できなければ、期待した価値を受け取れるとは限りません。これが、ここでいう「カウンターパーティーリスク」です。発行トークンを受け取る側は、誰が発行したものかを確かめ、その発行者との間にトラストラインを設定し、受け取る上限を定めます。

これに対して、XRPには償還を約束する発行者がいません。自分で管理するXRP Ledger上の口座から別の口座へXRPを直接送る場合、受取人が得るのは特定の発行者に対する請求権ではなく、XRPそのものです。そのため、IOUの発行者が約束を果たせないという意味のカウンターパーティーリスクを持ち込まずに、台帳上で価値を移せます。

ただし、これで送金に関わるリスクがすべてなくなるわけではありません。XRP自体の価格変動、秘密鍵の管理、取引所などに預ける場合の保管先の信用、法定通貨に交換する際の流動性などは別に残ります。XRP Ledger上でも発行者のいるトークンは利用でき、異なるトークン間の交換にXRPを経由する道が選ばれることもあります。その経路のXRP部分に発行者の債務はありませんが、最終的に発行トークンを受け取れば、その発行者の信用リスクは残ります。つまり、XRPは第2章のIOUの連鎖に別の発行者を一人加えるものではありません。発行者の債務を保有せずに移せる資産という違いが、後の送金の仕組みを理解する鍵になります。

JPYとMXNの発行トークンをXRPで橋渡しする概念図。日本とメキシコの各利用者はそれぞれの発行者にトラストラインを設定する。
図:発行者との信用関係と、XRPによる橋渡し(概念図)

ちなみに、開発初期の資料を読むと、プロジェクト名、ネットワーク、そして資産そのもののすべてに対して「Ripple(または ripples)」という言葉が使われていました。これはライアン・フッガーが発案したRippleコンセプトに由来するものでした。しかし現在では、仕組みを分かりやすくするため、台帳を「XRP Ledger」、資産を「XRP」、そして法人を「Ripple社」と明確に呼び分けています。そのため、当時の古い資料を振り返るときには、そこに書かれている「Ripple」が何を指しているのか、前後の文脈から読み解く必要があります。

初期コードに残る「XNS」という名前

ここまで見てきたXRPは、開発初期には「XNS」と呼ばれていました。2012年6月2日にアーサー・ブリットが加えたコードには、システム通貨の記号として「XNS」が使われ、初期の数量を1000億ユニットに設定する処理が残っています。開発者のデイビッド・シュワルツは、このコードによって、当時XNSと呼ばれた現在のXRPが発行されたと説明しています。XNSは現在のXRPとは別の資産ではなく、開発当時に使われていた名前です。また、現在XRP Ledgerと呼ばれている台帳は、開発初期から2017年5月に改称されるまで、Ripple Consensus Ledger(RCL)と呼ばれていました。なお、現在では「XRP Name Service」という別のサービスでXNSという略称が使われているため、年代や言葉の取り違えには少し注意が必要です。

こうして台帳が動き始めた後、その技術を使って事業を展開するための会社が2012年9月に設立されました。次の章では、これら3人の開発者に、起業家であるクリス・ラーセンが合流し、「NewCoin」から「OpenCoin」へと名前を変えながら進んでいく会社の歩みについて見ていきましょう。

出典・参考資料