第2章では、私たちが普段使っている「銀行預金」も、実は銀行が支払いを約束した「IOU(借用証書)」の一種であるというお話をしました。それでは、もし銀行という枠組みを飛び出して、個人と個人の「信用」をインターネットで直接つなぐことができたら、私たちのお金の支払いはどのように変わるのでしょうか。RipplePayという仕組みが考案された2000年代には、こうした疑問がとても新鮮に響く時代背景がありました。
情報は届くのに、お金はすぐ届かない
インターネットが普及し、電子メールを使えば海外にいる相手にもその日のうちに見積書や注文を一瞬で送れるようになりました。ウェブサイトを通じて世界中から商品を買い、遠く離れた国の人と仕事をすることも、今ではすっかり身近なことですよね。
ところが、いざ「代金の支払い・受け取り」となると、別の面倒な準備が必要になります。相手が本当にお金を払えるのかを確認し、相手の国の通貨に両替し、さらに銀行や決済事業者のシステムを経由して、ようやく資金が移動します。買い手がスマートフォンの画面で「送金」ボタンを押したとしても、売り手がそのお金を実際に引き出して使えるようになるまでには、数日かかってしまうことも珍しくありません。つまり、メールのような「情報」が伝わるスピードに比べて、お金という「価値」が届くスピードには大きなタイムラグがあったのです。
特に海外送金の場合、海外の銀行と直接やり取りできない銀行は、間にある「提携銀行」をいくつも中継して支払いを行う必要があります。あらかじめ外貨を用意しておかなければならず、手数料や為替の条件をその都度確認しなくてはいけません。もちろん、マネーロンダリングなどを防ぐための本人確認や審査は、安全にお金を動かすために欠かせない大切な業務です。
しかし、少額の支払いをこまめに行いたい人にとって、こうした高額な手数料や長い待ち時間は大きな負担になってしまいます。インターネットのおかげで世界中の人とビジネスができるようになったからこそ、この「古い資金移動の仕組み」という壁が、より一層目立つようになっていったのです。
二つの異なる問い
こうした時代背景のなかで、銀行に頼らない新しい電子マネーや、利用者同士が直接つながるP2P(ピアツーピア)型のネットワークがいくつも試みられました。
そのなかで、のちにRipplePayを考案することになるライアン・フッガーという人物は、「私たち人間がすでに日常的に行っている『貸し借り』や『信用』の関係を、そのままインターネット上で活用できないだろうか」と考えました。たとえば、「Aさんの約束ならBさんが信じる」「Bさんの約束ならCさんが信じる」というように、人々が持っている信用のつながりをバケツリレーのようにたどっていくことで、お金を支払うための「経路」を作れるのではないか、という斬新な発想でした。
一方で、もう一つ別の大きな問いもありました。それは、「誰かが後で払うと約束した借用証書(IOU)」に頼るのではなく、ネットワークの参加者全員で記録を共有し、誰もが確認できる「デジタル上の資産そのもの」を作れないか、というものです。
この問いへの一つの答えが、2008年に発表された「ビットコイン」の論文でした。ビットコインは、特定の管理者(銀行など)がいなくても、同じお金が二重に使われてしまう不正(二重支払い)を防ぐ画期的な方法を示したのです。その後、「XRP Ledger」というシステムを開発することになる3人の技術者たちも、この「デジタル上の資産をどう移転させるか」という課題に対し、ビットコインとは別のアプローチで挑むことになります。
ライアン・フッガーが考えた「人々の信用の約束をつないでいくRipplePay」と、のちに生まれた「台帳(データベース)の上でデジタル資産を直接動かす仕組み」は、どちらも「今の不便な支払いの仕組みを変えたい」という強い問題意識は共有していました。しかし、使われている技術やアプローチの仕方は、まったく異なるものだったのです。
2004年に生まれたRipplePayの構想、2012年に誕生したXRP Ledgerという台帳の仕組み、そしてその後に登場する企業向けの国際送金ネットワーク。これらすべてをごちゃ混ぜにして一度に語ろうとすると、新しい技術がどのようにステップを踏んで進化していったのか、その大切な過程が見えなくなってしまいます。
そこでまずは第一歩として、フッガーが「インターネット上で、いったい誰をどうやって信用すればいいのか」という問題にどのように取り組んだのか、その道のりから見ていきましょう。