「送った」と「受け取った」の間

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前の節では、送金人が円を支払っても、受取人が現地の通貨(たとえばペソ)を使えるようになるまでには、裏側で別の作業が残っていることを見ました。銀行へ「送金してください」という正しい指示が届いているのに、なぜ相手の口座にはすぐ反映されないのでしょうか。

この疑問を解くためには、「送金の指示」と「実際の資金の移動(決済)」を分けて考える必要があります。これは、請求書が手元に届くことと、実際にその代金が支払われることが全く別の出来事であるのと同じです。

銀行の帳簿で起きていること

送金する人の銀行口座から10万円が引き落とされると、その銀行が送金人に対して負っていた「預金債務(預かっているお金を返す義務)」は10万円分減ります。一方、海外の受取銀行が自分の顧客(受取人)の口座残高を増やせば、今度はその受取銀行が顧客に対して支払い義務を負うことになります。

つまり、この二つの銀行の間で、帳尻を合わせるための資金の受け渡しが必要になるのです。銀行同士が互いに持っている口座や、専門の決済機関を通じて残高を振り替え、もし異なる通貨で支払うのであれば、そこで為替取引も行われます。利用者から見れば「1回の送金」にすぎませんが、裏側では複数の銀行の帳簿(データ)が複雑に連動しているのです。

ここで、銀行が海外の提携銀行に預けている外貨口座について触れておきましょう。この口座は、外貨を預けた側から見ると「ノストロ口座(当方勘定)」、預かっている側から見ると「ボストロ口座(先方勘定)」と呼ばれます。一つの同じ口座を、お互いの立場から違う名前で呼んでいるだけです。

現地で受取人へなるべく早く支払いを行うために、銀行や送金事業者は、この口座などにあらかじめ資金を置いておくことがあります。これにより支払いはスムーズに始められますが、一方で、その資金は実際に送金で使われるまで他の用途に回せないという「資金効率の悪さ」が生まれます。後にRipple社が、暗号資産であるXRPを用いた流動性解決サービスを考えた背景には、この「事前の資金手当て(プレファンディング)」にかかる重い負担がありました。

SWIFTが伝えているもの

国際送金のニュースなどで、「SWIFT(スイフト)」という名前を聞いたことがあるかもしれません。SWIFTは、世界中の銀行などが標準化されたルールに従って、安全にメッセージをやり取りするためのネットワークを提供しています。

このネットワークを使えば、受取人の情報や金額、通貨の種類といった「送金の指示」をすばやく送ることができます。しかし、SWIFTのメッセージ自体が円やドルといった「実際のお金」を運んでいるわけではありません。実際の資金は、先ほど触れた銀行間の口座や、各国の決済システムを通じて別ルートで動いています。そのため、いくら情報が速く届いたとしても、外貨の調達や受取先での資金の準備が整っていなければ、最終的な支払いには時間がかかってしまうのです。

もっとも、現在の国際送金システムは長年にわたって改良が続けられています。SWIFTを使った送金だからといって、一律に何日もかかるわけではありません。今では送金経路の追跡ができるようになり、スピードの改善も大きく進んでいます。

それでも残ってしまう時間差について考えるときは、システムそのものの遅さではなく、「どこで作業が止まっているのか」に目を向ける必要があります。たとえば、国同士の時差や銀行の営業時間、マネーロンダリングなどを防ぐための厳格な本人確認、為替の処理、あるいは入力された送金先情報のちょっとした不一致など、さまざまな確認作業が関わってきます。ですから、ひと昔前の古い国際送金のイメージと、現在の最新サービスをそのまま単純に比べることはできません。

指示と決済を近づけるための発想

こうした課題に対し、Ripple社が後に銀行向けに提供した「xCurrent」というシステムは、関係者が送金の条件や現在の進行状況をリアルタイムで共有し、最終的な受取額や手順を見通しやすくする、というアプローチをとりました。

一方、別の製品である「xRapid」は、XRPを「橋渡し」として使い、送金先で必要な通貨をその都度リアルタイムに調達する、というアプローチをとりました。

前者のxCurrentが主に「情報のやり取りと銀行間決済の連動」に着目し、後者のxRapidが「オンデマンドの資金の調達(流動性)」に着目したシステムであることが分かれば、よく似た名前の製品でも混同せずに理解できるはずです。

次の節では、Ripple社がこの事業を本格的に始める前に、どのようなアイデアや着想があったのかを詳しく見ていきます。

出典・参考資料