私がXRPという暗号資産への投資を始めたのは、2014年のことでした。前年の2013年にはビットコインの価格が大きく上がり、「暗号資産」という言葉が世間の注目を集め始めていましたが、当時の私には「実体の見えないものになぜ価値が付くのだろう?」という疑問がありました。
そこから自分なりに調べていくうちに、ビットコインを支える「ブロックチェーン」という技術には、取引の処理速度や、利用者が増えたときの対応(スケーラビリティ)に課題があることが分かってきました。その一方で、XRPの基盤となる「XRP Ledger(エックスアールピー・レジャー)」を開発した人々は、ビットコインのような「マイニング(採掘)」と呼ばれる膨大な計算作業を使わずに、別の仕組みで取引の記録(台帳)を管理していました。「一体どのような考えから、この新しい技術が生まれたのだろう?」。私はその背景をどうしても知りたくなったのです。
それから私はインターネットで夢中になって資料を探し、2015年にはTwitterなどを通じて、同じ関心を持つ人たちと情報を交換するようになりました。最初は小さかったコミュニティも次第に大きくなり、私は技術的な文書や公式の発表を読み解いた結果を整理するために、2016年6月から「Ripple総合まとめ」というブログを書き始めました。もし単に「価格の動き」だけを追っていたら、お金の仕組みや国際送金のあり方について、ここまで深く考えることはなかったと思います。私が最初に抱いた「XRPの価値はどこから来るのか」という素朴な疑問は、いつしか「Rippleという企業は、世界をどう変えようとしているのか」という大きな問いへと変わっていました。
たとえば、日本から海外に暮らす家族へお金を送る場面を想像してみてください。私たちはスマートフォンの画面に金額と受取人を入力し、「送金」ボタンを押すだけです。メールなどの「情報」なら、一瞬で地球の裏側へ届く時代です。それなのに、「お金」はなぜ情報と同じように一瞬で動かせないのでしょうか。実は、お金が受取先の国に着くまでには、いくつもの銀行を経由した連絡、異なる通貨の交換、そして現地で支払うための資金をあらかじめ用意しておくことなど、私たちの画面からは見えない裏側の仕事がたくさん続いています。Rippleの歴史は、まさにこの「なぜお金は情報のようになめらかに動かないのか」という疑問から読み解くと、とても分かりやすくなります。
もっとも、Rippleが初めから国際送金の課題に対して、今のような明確な答えを持っていたわけではありません。さかのぼること2000年代、カナダの開発者ライアン・フッガーが考案した「RipplePay(リップルペイ)」は、人と人との信用をつなぎ合わせて支払いに利用するという構想でした。その後、2012年には別の開発者たちが「XRP Ledger」を動かし始め、ここで初めて「XRP」という暗号資産が誕生します。やがて開発者と起業家が合流して設立した会社は、「NewCoin」、「OpenCoin」、「Ripple Labs」、そして現在の「Ripple」へと何度も名前を変えながら成長してきました。銀行向けのシステムである「xCurrent(エックスカレント)」、XRPを活用する「xRapid(エックスラピッド)」、企業の接続口となる「xVia(エックスヴィア)」といったサービスが登場するのは、さらに後のことです。現在、これらのサービスは「Ripple Payments(リップル・ペイメンツ)」という一つの名前に統一されていますが、過去の製品名をすべて現在の名前に置き換えて語ってしまうと、その時々に「何が新しかったのか」「何が今に引き継がれたのか」が見えなくなってしまいます。
2017年には「RippleNet(リップルネット)」と呼ばれる製品群が発表され、その中のxRapidはその後「On-Demand Liquidity(ODL:必要なときに必要なだけの資金を即座に調達できる仕組み)」というサービスへと発展しました。そして2023年、Rippleはこれらの国際決済サービスを「Ripple Payments」として打ち出します。この間に、サービスを利用する金融機関や送金事業者の数は大きく増え、対象となる通貨や市場も世界中へ広がりました。私がこの本を通じて追っていきたいのは、単なる「サービス名の改名の歴史」ではありません。その時々で立ちはだかった送金の課題に対して、人々がどのように向き合い、どのような技術と事業を組み立てていったのかという過程です。

創業期の事業と現在の規模を比べてみると、その変化の大きさには驚かされます。Rippleは2025年11月に5億ドルの戦略的投資を受け、自社の企業評価額が400億ドルに達したと公表しました。さらに2026年には、Ripple Paymentsを通じて処理された累計の決済額が1,000億ドルを突破したとも発表しています。「企業評価額」とは投資家たちが算定した会社の価値であり、「処理額」は決済サービスで実際に扱ったお金の累計額を指します。これらは会社の「売上」や「利益」とは異なるため混同には注意が必要ですが、いずれもRippleの送金事業がどれほど巨大に成長したのかを考える、重要な手掛かりになります。
事業の広がりは、彼らが行ってきた企業買収の動きからも読み取ることができます。2023年には、金融機関向けにデジタル資産の安全な保管技術を提供していたMetaco社を2億5,000万ドルで買収しました。続いて2025年には、大口の機関投資家の取引を支えるHidden Road社の買収を12億5,000万ドルで発表。さらに、価格が安定した暗号資産(ステーブルコイン)の決済インフラを提供するRail社に2億ドル、企業が現金の残高や資金繰りを管理するシステムを提供するGTreasury社に10億ドルの買収を立て続けに発表しています。「国際送金」から始まり、デジタル資産の「保管」、そして「取引」、さらには「企業の財務管理」へ。買収した会社がもともとどんな仕事をしていたのかを見ていくと、Rippleが次にどのような未来を目指しているのかがはっきりと浮かび上がってきます。
テクノロジー企業が急速に成長する現代において、Rippleもまた、企業評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業、いわゆる「ユニコーン企業」の枠をはるかに超える高い評価を受けています。その規模から、宇宙開発のSpaceXやAI開発のOpenAIなどと並べて語られることもありますが、事業の中身も評価された時期も異なる企業同士を、金額という同じ数字だけで単純に比べることはできません。本書の副題「ユニコーン企業はこうして誕生した」で問いかけたいのは、他の企業との順位ではなく「成長の過程」です。どのような人々と技術が集まり、社会のどんな問題に向き合い、そしてどこで事業の方向を変えながら進んできたのでしょうか。
その波乱に満ちた歩みの中には、2020年に起きた米国証券取引委員会(SEC)による提訴という出来事も含まれています。Rippleと経営幹部二人が被告となったこの訴訟は、XRPの販売方法をめぐる問題にとどまらず、暗号資産全体を取り巻く規制の議論にも大きな影響を与えました。本書では、複雑な裁判の判決を「勝ったか、負けたか」という一行の見出しに縮めてしまうことはしません。具体的にどの取引が争われ、裁判所がそれぞれに対して何を判断したのかを、当事者や弁護士、判事、そしてXRPを保有する人々の動きとともに、丁寧にたどっていきます。
そこで本書はまず、「私たちが毎日使っている銀行預金とはそもそも何なのか」「支払い・清算・決済という言葉はどう違うのか」といった、お金の基本をひもとくところから始めます。金融やテクノロジーの予備知識がなくても大丈夫です。国際送金の現場で何が起きているのかを順番に追っていけば、初期のRipplePayで使われた「IOU(アイオーユー、借用証書)」の仕組みや、XRPが果たしている役割も、きっと自然に理解できるはずです。キーとなる登場人物については、初めて出てきたところでその役割や背景を添えるようにしました。初期の構想から現在の「Ripple Payments」に至るまで、似たような名前の裏側に隠された劇的な変化を、これから一緒に順番に確かめていきましょう。