【嘘大爆発】コインテレグラフのYouTube動画を検証

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クリプト業界に流れるFUDを取り上げる

さて、しばらく記事を投稿していなかったのですが、先日PayIDに関する記事をアップしたところ予想以上(700ページビュー/日)の反響があったためぼちぼち投稿を再開しようと思います。Ripple/XRPに関してはリップル社からの発表を中心に毎月たくさんの新しいニュースが流れるためネタに困ることは無いのですが、今後はクリプト業界で定期的に流されるFUDについても積極的に取り上げていこうと思います。

さて、第一弾として取り上げるのはRipple/XRPのFUDをいつも大々的に流してくれているコインテレグラフのYouTube動画からの情報です。タイトルとサムネイルにコインテレグラフらしさが出ていて素敵です。

 

リップルの存在自体の目的がはっきりしていない?

動画には出だしから「リップルの存在自体の目的がはっきりしていない」という、とても親切で分かり易いFUDのテロップが付けられています。のっけから嘘大爆発です。Ripple/XRPの存在目的については、『価値のインターネット』(IoV)というビジョンを掲げXRPを応用したクロスボーダー決済を推進するリップル社がたくさんの解説を文書や動画として公開しているので、私がここで改めて解説するまでもないでしょう。

価値のインターネットとは:

XRPに対するRippleのビジョン:

このように、Rippleには明確なビジョンと目的が存在しています。

 

他の暗号資産を使えば良いだけ?

さて、このリップル社のクロスボーダー決済に暗号資産技術を応用するという取り組みについて、「目的が目的になっていない」とか「他の暗号資産でもできる」と中国人の持論は続きます。簡単に言えば「技術的には他の方法でもできるでしょ?」という話です。(はいはい、できます。技術的にはね・・・)

これに関しては、リップル社現会長のクリス・ラーセンが2014年、つまり今から6年も前に次のように述べていました。

「ビットコインに関わる起業家たちは金融産業に革命を起こすと言う。ばかげた話だ。規制業種の金融ビジネスでは、当局と折り合いをつけていく必要があり、ビジネスの変革スピードは緩やかだ。今の多くのベンチャーのアプローチでは成功するとは思えない」

出典:日本経済新聞

法律を守らなくても良いのであれば何だって出来ます。国際送金は暗号資産など使うまでもなく仕組み的には誰でも簡単にできるのです。やっていることはただの両替(日本からアメリカであれば円からドル)なので、それが実現できれば仕組みとしては成り立つのです。しかし、法律を守らなければそれは『地下銀行』になってしまいます。ちょうどこの記事を書く直前にも地下銀行を営んだとして逮捕された人達がいるので紹介しておきます。

じゃあ、これを暗号資産を使ってやればOKかと言うと当然ですが同じように違法行為になります。重要なのは、クリス・ラーセンが言うように規制と向き合いその技術を応用して合法的にそれを実現するための仕組みを構築することです。日本であれば、例えば次のような法律を守らなければいけません。

  • 銀行法
  • 資金決済法
  • 金融商品取引法
  • 外為法

日本では暗号資産は資金決済法において決済(支払い、資金移動)の手段と定義されていますから、当然のことながらそれを移動すれば法的には支払いや資金移動と見なされます。財務省も公式サイトにおいて、暗号資産の移動は外為法により規制されていると発表しています。

外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号。以下「外為法」という。)では、強制通用力のある通貨等の支払手段の移転だけでなく、当事者間で債権債務の消滅や財産的価値の移転があったと同視し得る財の移転があれば、同法上の「支払」があったと捉えています。

したがって、仮想通貨に関する取引であっても、例えば、日本と外国との間又は居住者と非居住者との間で、債権債務の消滅や財産的価値の移転を行い、その対価として仮想通貨により支払をした場合又は支払の受領をした場合であって、当該対価が3,000万円相当額を超える場合には、日本円や米国ドル等の法定通貨を用いた支払又は支払の受領と同様に、財務大臣への報告が必要となります。

出典:財務省

また、国としてはFATF(金融活動作業部会)などの国際的な規制を守る必要があります。ICOを使えばIPOをするまでもなく簡単に資金調達ができると言って実行した人達が今どうなっているでしょうか?

各国の金融機関が参加して構築が行われているRippleNetは、これらの規制の問題をクリアにし、従来の仕組みよりも安全で効率的な送金を実現するための試みなのです。RippleNetにはそれを実現するためのコンプライアンス・スクリーニングの仕組みが備わってるとリップル社は説明しています。

トレジャラー(財務担当者)は彼らの預金残高をリアルタイムに把握し、ファイルをインポートすることで一括払い取引の処理を選択します。インポートが終わると、Ripple はコンプライアンス・スクリーニングのための主要な取引情報を検証します。Rippleに対応した銀行が、支払い額、総費用、納期の見積もりの通知を返していることに注目してください。他の銀行は、このレベルの詳細を提供することができません。重要なことは、この情報は事前に開示することができ、ドッド=フランク法1073条およびバーゼルIIIガイドラインの遵守要件を満たします。

出典:リップル社

 

ジャスティン・サンの影響でXRPが高騰した?

これはあり得ません。XRPが400円に到達したのは2018年1月です。私もジャスティン・サンが過去にリップル社に在籍した事実は知っています。しかし、ジャスティン・サン本人が公開している情報によれば、彼がリップル社に在籍したのは2016年1月までです。つまりXRPが400円になった2年も前にリップル社を辞めてしまっているのです。もっと言えば、XRPの価格は2017年2月まで1円以下を付けており、彼がリップル社に在籍した期間にXRP価格が高騰した事実すらありません。

そして、これは中国では当たり前のこととして知られているようですが、中国でXRPを広めたのは『Ripple从入门到精通』(Ripple從入門到精通)を書いた張銀海さんです。これは日本で言うところのRipple総合まとめのようなもので、XRPの中国語にあたる「瑞波币」という言葉も張銀海さんによって作られたものです。(まさかこの業界の中国人でそんなことを知らない人はいないでしょう。)

ところでこの話、(そもそもですが)何か違和感を感じないでしょうか?最初にジャスティン・サンがリップル社を辞めてトロンを創設したと言っておきながら、もう一方では同氏がリップルの中国マーケット責任者としてXRPを広めた影響で2017年の仮想通貨バブルでXRPが高騰したかのような話になっています。それがXRP価格高騰の背景にあったと主張したいのであれば、ジャスティン・サンがリップル社を辞めたのかリップル社の中国マーケット責任者としてXRPを広めたのかどちらか片方に統一すべきでしょう。話が矛盾しまくってて腹筋崩壊です。ここでは関係のないトロンという言葉が脈絡無く出てきたのも彼がトロンで有名な人だからでしょう。

暗号資産市場が停滞するきっかけとなったコインチェックの盗難事件(2018年1月)から既に2年半が経過しており、2017年の様子を知っている人も少なくなってきていると思います。ですが、私は当然ながらあの頃のことはとても鮮明に覚えています。2017年は中国人が暗号資産市場から撤退し、代わりに取引のほとんどが日本人によって行われていました。その背景には中国政府による暗号資産取引の禁止命令があります。

では、2017年の暗号資産市場がどのような状況だったのか当時の記事を読み返してみましょう。

11月17現在、日本円建てでのビットコインの取引シェアは59.86%と過半数を占める勢いとなっており、米ドル23.34%、韓国ウォン建て10.88%、ユーロ建て3.55%という数字を見ても、他国や他共同体を圧倒しています(cryptocompare.comより)。

出典:楽天証券

当時から口の悪い人が「XRPは日本人しか買っていない」などと大声で叫んでいたので、特にXRPに関しては中国人の影響がどれほど少なかったのかは客観的にも分かると思います。では、実際に中国人による取引シェアがどれほど減っていたのかを見てみましょう。

図表1.2017年に激減した中国人の取引シェア 出典:jpbitcoin.com

上のグラフの長い青色の棒が中国元建ての取引高です。このように2017年2月頃から急激に中国市場が縮小していたのが現実です。別の言い方をすれば、中国市場が活発だったのはXRPの高騰とはまったく関係の無い2016年までです。

 

XRP価格が高騰した本当の要因

これに関してはあえて説明する必要もないかもしれませんが、2017年はテレビCMを行っていたビットフライヤーとコインチェックの2つの取引所が有名でした。実際のところ、暗号資産の取引高のシェアはこの2つの取引所がそのほとんどを占めていました。

図表2.取引所別の取引高 出典:jpbitcoin.com

ご覧の通り、当時コインチェックの取引高は日本市場全体の約半分を占めており、有名取引所としてはXRPを購入できる唯一の選択肢でした。そして、出川哲朗さんを起用したCMによりコインチェックを介してXRPが購入されるきっかけとなりました。

しかしながら、2018年1月にコインチェックが大規模な盗難事件により取引を停止したため、逆にこれがXRP価格の下落を招く原因にもなりました。このときの日本市場の過熱ぶりは、Ripple総合まとめブログのアクセス数にもしっかり記録されています。

べつに中国人がXRPの価格を上げたわけでもなく、中国人が撤退したからXRPの価格が下がったわけでもありません。

 

市場停滞が続いた理由

くだらないホラッチョの話ばかりしていてもつまらないので、現在まで暗号資産市場が停滞した理由について私の考察を書いておきます。XRP価格の急騰と急落の原因は前述の通りです。つまり急騰の原因はコインチェックのテレビCM開始に伴うXRP取引高の増加で、急落の引き金となったのが盗難事件による取引停止によるものであることは疑いようもないでしょう。そして、この影響で取引所のテレビCMは全面的に停止されました。私も当初はコインチェックが早い段階で取引再開できるものと予想していたのですが、盗難されたXEMが日本円換算で約580億円と巨額であったこともあり、金融庁から厳しい指導を受けたことでXRPの取引再開は2018年11月26日まで延びました。

そして、多くの人がコインチェックの取引再開によって再び市場に活気が戻ることを期待していましたが、最悪なことに日本の取引所のZaif(ザイフ)でも同年9月に盗難事件が発生したことで、取引所のテレビCM再開も絶望的となりました。私が伝え聞いた話では、当初は2019年春のCM再開を目指していたようです。これにより2019年中のCM再開が可能かどうかという雰囲気が業界に流れていましたが、なんと今度は2019年7月にビットポイントで盗難事件が発生してしまいました。これにより、暗号資産ブームを支えた日本市場が2019年中に復活する希望は完全に絶たれてしまいました。

当然ですが盗難被害に遭った取引所は顧客に対して補償を行わなければいけないことから、自社で保有する暗号資産も相当額が売却された可能性があります。さらに2017年末からの価格高騰期には、2014年に盗難被害に遭ったマウントゴックスの破産管財人が大量のビットコインを売却したことが確認されています。

そうこうしているうちに、マネー・ローンダリングとテロ資金供与対策(AML/CFT)における国際的な規制を指導するFATF(金融活動作業部会)から、暗号資産を取り扱う業者(VASP:Virtual Asset Service Provider)に対して銀行並みの厳しい規制を課す方針が決定されました。そしてFATF加盟国に対して2020年6月までの対応期限が設けられることとなりました。

そこで業界では、日本で改正金商法が施行される5月からFATF基準への対応期限である6月あたりを1つの区切りとして、取引所のCM再開を含む何らかの動きがあるのではないかと予想されるようになりました。そして、大方の予想通り先日からビットフライヤーがテレビCMを再開しています(新しいイメージキャラクターは乃木坂46の齋藤飛鳥さんとのこと)。

 

今後はどうなるのか

これはあくまでも私個人の予想ですが、ビットフライヤーに続いて他の日本の取引所もテレビCMを再開または新たに開始する流れになると思います。当然ながら2017年にテレビCMを放映していたビットフライヤーとコインチェックだけでなく、今年は他の取引所も次々とCMを流すことになるでしょう。特に注目されているのは電通やJR東日本も出資するディーカレットやSBIグループ傘下のSBI VCトレードなどのCM開始です。コインチェックの盗難事件以降、これまでテレビ業界は暗号資産に対してネガティブな印象を持たせるような情報を流してきましたが、番組スポンサーに暗号資産取引所が付けばスポンサーとの契約上そうしたことは基本的にできなくなると思われます。

2017~2018年から参入した人達は知らないと思いますが、暗号資産市場の低迷が続いたのはこれが初めてではありません。最も有名なのはマウントゴックス事件以降の氷河期です(XRPに関しては国内で取り扱う取引所が無かったため、もっと長い期間低迷が続きました)。テレビ業界も同じような雰囲気でした。とくに私の印象では、ここ2年間あたりの様子は2016年頃の雰囲気ととても似ています。ですから、今年は暗号資産市場にとって再スタートの大事な年になると思います。これから年末にかけて何らかの動きが見えてくると思います。

リップル社のパートナーのSBIグループからは、暗号資産を取り扱うSBI VCトレードだけでなくSBI FXトレードも暗号資産の差金決済取引(CFD)が開始されることが発表されています。実際にサービスのローンチがいつになるのかは分かりませんが、決算説明会の発表では2020年6月以降という記載が確認できました。これは金融商品取引法の改正を受けてのものですが、こうした動きはこれまでには無かった新しいものです。これが実現すれば、これまで外国為替取引を行っていた投資家も暗号資産市場に入ってくることになるでしょう。但し、こうした好材料が控えている一方で、前述したような暗号資産サービス提供者(VASP)に対する規制の動きがあることにも注意が必要だと思います。

とりあえず、今後の動きにジャスティン・サンが関係ないのは間違いないでしょう。


以下は本記事とは直接関係のない内容です。

追記:アンゴロウさんからの指摘へのコメント

本記事に関してアンゴロウさんからYouTube上で名指しで回答を求められたのでこちらに追記します。(当ブログにはコメント欄が用意されているので以降はそちらをご利用ください。)

私が本記事で「2017年のXRP高騰と翌年1月からの下落はジャスティン・サンや中国市場の影響ではない」としたことに関して、アンゴロウさんから

「でも、2018年12月15日を基準にするとXRPはビットコインなどよりパフォーマンスが悪いよね?」

という趣旨の反論を頂きました。このご指摘に関しては、本記事の内容とは直接関係がないことと、暗号資産価格の変動に関しては様々な原因とそれに対する考察(例えば基準日を変えるとXRPの方が他の暗号資産よりパフォーマンスが良いなど)があると思いますので、それについて個別に言及することは差し控えたいと思います。そしてもう1点、

「中央銀行デジタル通貨(CBDC)が登場してもブリッジ通貨は必要なの?」

という質問に関してですが、「必要である」というのが私の見解です。なぜ必要であるかは、当ブログの『Rippleが解決する現実の問題』や電子書籍版の『Ripple総合まとめ:ユニコーン企業はこうして誕生した』に解説記事を掲載しているのでそちらを参照してください。手短に話すとRippleNetはILP(インターレジャー・プロトコル)という技術を応用したクロスボーダー決済システムです。

ILPはHashed-Timelock Contracts(HTLC)などの技術を応用することで、複数の異なる台帳上の残高を同時に振り替えることを可能にするための標準化された手順を定めたプロトコルです。各国の中央銀行はILPを利用するRippleNetやHyperledgerの実証実験を行っています(例:日銀・ECBイングランド銀行MAS)。

※リップル社はHyperledgerプロジェクトと協業し、ILPの技術供与を行っています。同社はJava言語で実装されたHyperledger Quiltのメインコントリビューターです。

RippleNetではブリッジ資産を介して通貨の両替が安全に行われます。そのブリッジ資産にはXRPも含まれます。この仕組みが成立するのは、XRPがILPをサポートしているからです。その他のUSDなどの民間銀行が発行する預金通貨に対応するイシュアンス(IOU)も同様にILPに対応しています。つまり、RippleNet上で利用されるイシュアンスやXRPには元々クロスボーダー決済で利用されることを目的とした様々な機能が実装されているため、それが実現できているわけです。CBDCにはそのような機能が存在しないだけでなく、そもそもパブリックな市場でブリッジ資産として取引される目的で開発されているものではありません。(例えば、ILPがバージョンアップしたときにCBDCがそれをサポートするでしょうか?)Hashed-Timelock Contracts(HTLC)の応用でILPを利用する優位性については、日本銀行と欧州中央銀行が主導する分散型台帳技術に関する共同調査プロジェクトの『プロジェクト・ステラ』が次のように結論づけています。

「複数パターンの決済の同期の実験が行われ、成功裡に終わった。この中にはDLT台帳間、中央集権型台帳間、DLT台帳と中央集権型台帳の間でILPを用いた場合の決済の同期が含まれている。ILPはInterledgerのホワイトペーパーで紹介されている送金プロトコルの仕様である。ILPを用いないDLT台帳間の決済の同期も実現可能なため、決済の同期にILPの使用は必ずしも必要ではない。それにもかかわらず、ILPは異なる種類の台帳の抽象化を助け、それゆえ標準化の利点をもたらしうる。」―出典:日本銀行

念のため補足しておきますが、アンゴロウさんが動画中で言及している

「コロナショックによってキャッシュレス決済の需要が伸びて、各国の政府がデジタル法定通貨の発行に向けて動いている。そして、最近デジタルドルプロジェクトがホワイトペーパーを公開・・・」

の部分に関してですが、ご指摘の根拠とされているこのホワイトペーパーは政府によって公開されたものではありません。これは『The Digital Dollar Project』によって公開されたものです。

そして、このホワイトペーパーで提案されたデジタルドルの構想は、下記のコインデスクの記事にもあるように『二層構造』の通貨供給システムを前提としたものです。(中国政府などが進めるCBDCも同様に二層構造モデルを前提としたものです。)

つまり、ここで言うデジタルドルとは民間人や民間企業によって利用されるものではなく、従来の中央銀行口座で管理される残高と同等のものです(通貨制度上、中央銀行に口座を保有できる民間人や民間企業は存在しません)。これはWholesale CBDC(W-CBDC)と呼ばれるもので、従来の中央銀行口座の残高に相当するものです。例えば、カナダ中央銀行が主導するProject Jasperとシンガポールの中央銀行(MAS)が主導するProject Ubinが共同でW-CBDCとDLTをクロスボーダー決済に応用する実験をしていますが、複数の台帳を接続するにはブリッジ通貨などの仕組みが必要だと結論づけています。

Hashed-Timelock Contracts(HTLC)は理論的には3つ以上のネットワークをまたがるアトミック・トランザクションに使用できますが、2つのDLTネットワークをまたがるアトミック・トランザクションのみをテストした現在の概念実証ではこれはテストされていません。このような取引には、ブリッジ通貨を使用した外貨取引(例えばSGD-USD-CADのような取引)または投資家が現地通貨を外貨に両替して外貨建ての証券を購入するDvPvP取引など、考えられるユースケースがあります。」

出典:MAS『Jasper – Ubin Design Paper: Enabling Cross-Border High Value Transfer Using Distributed Ledger Technologies』

ですから、このデジタルドル(W-CBDC)というのはそもそもアンゴロウさんがYouTubeでおっしゃっている「個人や企業がそれぞれウォレットを持って契約相手に直接デジタルドルを送金できる」という用途のものではありません。もちろん、預金通貨と法定通貨の兌換性を保証するために現在の現金紙幣にあたるものを保有・交換できる仕組みは必要だと思いますが、その用途と送り先はデジタルウォレットによって制限されたものにすべきというのがDigital Dollar Projectのホワイトペーパーの説明であり、それを何にでも使えるというものではありません。二層構造モデルを破壊しないというのが大前提なのです。

「ホールセール型のCBDCは、分散型台帳技術と組み合わせることで、証券取引やデリバティブ取引の決済の効率性を向上させ得る。もっとも、これまでホールセール決済について提案された応用事例は──性能、効率性や頑健性の面で既存の中央銀行システムの要件をベースとしたものであることから──既存のインフラと概ね類似しており、特筆すべきメリットは見出せない。将来的には異なるシステムの設計に基づく実証実験も登場するかもしれないが、中央銀行が新技術を用いてホールセール型のCBDCを安全に導入できるようになるまでには、より多くの実験や経験が必要となるだろう。」―出典:日本銀行

これに対し、個人や企業が保有できるCBDCはgeneral purpose CBDCと呼ばれますが、こちらは実用化のハードルが高く現実的ではないと言われています。

「CBDCは国際的にも2つに分けて考えることが標準となっています。1つは、国際決済銀行(BIS)が「general purpose CBDC」と言っている、一般の人が現金の代わりに使えるCBDCです。もう一つは「wholesale CBDC」で、元々デジタル化されている中央銀行当座預金に、ブロックチェーンなどの新しい技術を応用する大口決済専用のCBDCです。分けて議論をする理由はいくつかありますが、一番大きな理由は、general purpose CBDCは技術よりも制度や法律の面で、乗り越えるべきハードルが高いということです。現在、中央銀行に預金口座を保有できるのは銀行などに制限されていますが、general purpose CBDCを発行することは、企業や家計が中央銀行に直接に預金口座を持つことと近くなります。そうなると、中央銀行の取引先に関する政策を根本から見直す必要が出てくるわけです。また、企業や家計がCBDCを直接に持てるようになると、金融システムに不安が生じた場合の預金取り付けが、現在より急速に進むことへの懸念もあります。更に、中央銀行がCBDCにマイナス金利も含めて金利をつけるべきかどうかという、金融政策上の課題も出てきます。一方、wholesale CBDCについては、中央銀行当座預金は既にデジタル化されていますので、制度、あるいは金融政策や金融安定の観点からのハードルはgeneral purposeほど高くないと考えられます。」―出典:野村総合研究所

上記の対談の中でIMF日本理事代理、日銀金融市場局長、日銀決済機構局長、バーゼル銀行監督委員会委員、BIS市場委員会委員などを歴任した山岡浩巳氏も言及している通り、二層構造モデルを前提とした外国為替市場で取引されているされているのは基本的に民間銀行により発行された預金通貨です。そもそも『為替』という言葉自体が現金以外の決済手段の総称です。これもRipple総合まとめで解説している通りです。民間銀行により信用創造された預金通貨と中央銀行が発行するベースマネーを1対1で交換してくれる市場があるのなら、民間銀行は喜んで自分が発行した預金残高と1対1で交換するでしょう。それが可能なら民間銀行は無限に信用創造ができるのではないでしょうか。パブリックな為替市場で取引可能なXRPのようなブリッジ資産が求められる理由もここにあります。

Digital Dollar Projectのホワイトペーパーが指摘しているとおり、従来のコルレス銀行モデルのクロスボーダー決済システムには問題があります。その問題と現状の解決策についても、さきほど紹介した『Rippleが解決する現実の問題』で解説済みです。CBDCが利用可能になれば、ここで解説しているCLS決済(Continuous Linked Settlement)のような仕組みがより効率的になる可能性はあると思います。それはCLS決済が中央銀行の当座預金勘定(つまり中央銀行通貨)の振り替えによって成り立つ二層構造を維持する仕組みであり、それを中央銀行デジタル通貨を応用することで効率化することが可能かもしれないからです。しかし、システムが効率化されたとしてもCLSの仕組み上、現在と同様に対応できる通貨数は限られるのではないでしょうか。それではRippleNetが解決する課題を解決することはできません。

―ブリッジ通貨は必要なのか?

ブリッジ通貨(ビークルカレンシー)は従来のインターバンク市場においても存在するもので、RippleNet固有の概念ではありません。ブリッジ通貨の存在意義は技術的な問題を克服することではなく、クロスボーダー決済にともなう両替の通貨ペア数を減らすことです。これも『Ripple総合まとめ』で既に解説しているのでここで詳しい説明はしませんが、従来のインターバンク市場ではUSDがブリッジ通貨として利用されてきました。そして、それに起因する問題についても『Rippleが解決する現実の問題』で解説していることですが、どうしても記事を読んで頂くことはできないようです。何がそうさせているのでしょうか。

どうしても読んで頂けないようなので、ここで手短に解説します。USDをクロスボーダー決済のブリッジ通貨として利用するということは、アメリカの銀行口座間で資産の移動が起こることを意味します。それは民間銀行の口座であれ、デジタルドル(CBDC)を含む中央銀行(FRB)の口座であれ同じことです。つまり、送金元と送金先が第三国であってもその取引にはアメリカの規制が適用されることになります。911テロ以降、アメリカの金融規制は非常に厳しくなっています。そのためアメリカの銀行は、本来は自分たちのビジネスとは関係の無いそれらの送金を取り次ぐために多大なコスト(コンプライアンス・スクリーニングなどにかかるコストなど)をかけています。そして、規制に違反してしまった場合には政府から多額の罰金の支払いを命じられているのが現状です。これはアメリカの銀行にとっては採算の取れないビジネスであるため、アメリカの銀行はそうした第三国(とくに新興国)の銀行に対してコルレス銀行サービスの提供を停止し始めています。これは金融業界では『デ・リスキング』問題と呼ばれています。これにより新興国の企業が銀行から提供される貿易金融サービスを利用できなくなりビジネスに深刻な問題が及んでいます。これがUSD以外のブリッジ通貨が必要とされる理由です。

「デ・リスキング(de-risking) とは、銀行が、顧客が自行に持っている為替送金のためのコルレス口座を停止する、または国外送金を受け付けないなどにより、その銀行が送金等により背負う可能性のあるマネーロンダリング及びテロ資金送金(AML/CFT) リスクを最小化しようとする行為のことである。 国際的な金融活動を行う銀行がデ・リスキングを進める動きは、ここ数年間で顕著に拡大している。世界銀行が金融活動理事会(FSB) 及びG20のマンデートにより調査し、2015年10月に公表した報告書によれば、調査対象になった世界の190金融機関のうち、半数以上がコルレス取引関係を縮小し、送金業者の3割近くが銀行サービスにアクセスできなくなったと答えている。 デ・ リスキングが進む理由は、AML/CFT規制の厳格化により、 銀行がコルレス取引先の銀行の先の顧客の属性まで知ること(Know-Your-Customerʼs-Customer: KYCC) が慣行化しつつあり、KYCCを怠った場合には金融監督当局等から巨額の制裁金を課されるなどの例が相次いでいるからである。2014年に仏系金融機関が米国当局のOFACからAML/CFT規制違反により、9.63億ドルの史上最高の制裁金を課されたことは記憶に新しい。」

出典:政策シンクタンクPHP総研

―XRP/RippleNetは不要になるのでは?

「〇〇があるからXRPはいらない」のXRPの部分について、なぜXRPだけがターゲットにされるのでしょうか?私にはそこが一番の疑問ですし、そもそも現実に存在すらしない決済システムの話をでっちあげ、それをぶつけることで「RippleNetはいらないのではないか?」という議論をする意味が分かりません。そんな話がしたいのであれば

「ビットコインボールZというあらゆる暗号資産を超越し、世界の問題を解決することが可能な未来の暗号資産が登場して世界中の人々がそれを使うようになったらビットコインはいらないですか?」

という話をしていれば良いだけです。現存しない架空の決済システムに関しては、「各国の中央銀行がリップル社と協業して既に実用化されているRippleNetを採用すれば、そのシステムはいらないのではないですか?」とでも言えば良いのでしょうか。

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