デジタル資産と伝統金融の融合が加速、RLUSDの本格展開も視野に
2025年4月8日、暗号資産インフラを手がける米Ripple社は、急成長中のプライムブローカー「Hidden Road」を**12.5億ドル(約1,875億円)**で買収すると発表した。これは同社史上最大の買収であると同時に、デジタル資産業界全体でも過去最大級の取引のひとつとなる。
本買収によりRippleは、**世界初の「暗号資産を主軸とする総合型グローバル・プライムブローカー」**となる見通しで、今後の市場拡大に向けた基盤構築を本格化させる。
Ripple’s acquisition of Hidden Road is a defining moment for the XRP Ledger and XRP. The prime broker clears upwards of $10B and processes over 50M transactions a day on various traditional rails, waiting up to 24 hours for those transactions to settle. Now imagine even a portion… https://t.co/xiHdyy30Sm
— David “JoelKatz” Schwartz (@JoelKatz) April 8, 2025
Ripple社CTO:
「Ripple による Hidden Road の買収は、XRP Ledger と XRP にとって決定的な瞬間です。プライムブローカーは 100 億ドル以上の決済を行い、さまざまな従来のレールで 1 日に 5,000 万件以上の取引を処理し、それらの取引が決済されるまで最大 24 時間待機します。では、その活動の一部でも XRP Ledger で行われることを想像してみてください。そして、それはまさに Hidden Road が計画していることです。もちろん、XRPL でトークン化された担保や現実世界の資産の将来的な使用は言うまでもありません。」
Hidden Roadとは:金融機関向けの次世代ブローカー
Hidden Roadは2018年、元SAC Capital/Point72出身のMarc Asch(マーク・アッシュ)氏によって設立された。主に外国為替(FX)、デジタル資産、デリバティブ、債券などの取引において、清算(クリアリング)・資金調達・保管・信用供与といった総合的なサービスを機関投資家向けに提供している。
年間のクリアリング総額は3兆ドル(約450兆円)にのぼり、顧客は世界中の300超の機関投資家に広がる。Citadel Securities や Coinbase Ventures、Wintermute といった著名企業からの出資実績もあり、業界内で高い評価を受けている。
Rippleの狙い:「インフラ支配」とRLUSDの実用化
Rippleは本買収によって、デジタル資産市場におけるインフラプレイヤーとしての地位確立を目指す。これにより、従来の「送金企業」から脱却し、証券・為替・暗号資産をまたぐハイブリッド型金融機関への進化を図る。
とりわけ注目されるのが、Rippleが発行する米ドル連動型ステーブルコインRLUSDの活用拡大である。Hidden RoadはRLUSDを担保資産(コラテラル)として採用する計画で、これにより業界初となるデジタル資産と伝統資産間でのクロスマージニングが可能になる。
クロスマージニングとは
複数の資産をまとめて証拠金に充て、取引の効率化とコスト削減を実現するリスク管理手法。本来は伝統金融で一般的だが、デジタル資産において実現したのは今回が初となる。
XRPLの活用:取引後業務をブロックチェーンへ
Hidden Roadは、取引後の決済・清算・報告などのポストトレード業務をRippleが主導する**XRP Ledger(XRPL)**上に移行する方針。これにより、運用コスト削減やトレーサビリティ向上が見込まれる。
Rippleはこの動きを「XRPLが機関投資家向けDeFi(分散型金融)の標準基盤になる第一歩」と位置づけている。
市場環境とタイミング:米国の規制緩和も追い風に
2020年より続いていた米証券取引委員会(SEC)との訴訟が2025年に終了し、Rippleは再び米市場でのビジネス展開を加速させている。ブラッド・ガーリングハウスCEOは、「暗号資産市場は制度化への分岐点にある」と語り、本買収によってその転換を主導すると強調した。
なお、RLUSDは2024年12月にローンチされ、現在は市場時価総額約3億ドル。ステーブルコイン市場ではまだ12位にとどまるが、ガーリングハウス氏は「年内にトップ5入り」を見据えていると述べている。
プライムブローカーとは:伝統市場での必須プレイヤー
本買収のキーワードである**「プライムブローカー(Prime Broker)」**とは、主に機関投資家向けに取引の補助業務を総合的に提供する業者である。以下のような機能を備える。
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取引資金の貸し出し(証拠金提供)
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証券貸付(ショート取引対応)
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保管(カストディ)
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取引の決済・清算業務(クリアリング)
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リスク管理支援
従来は大手銀行が担っていたが、暗号資産分野では非銀行系の新興企業が中心となっている。特にFTXの破綻以降は、信頼性とリスク管理に優れた独立系ブローカーの需要が急拡大しており、Hidden Roadの存在感も高まっていた。
今後の展開:Rippleの戦略転換を象徴する取引
Rippleは過去10年以上にわたり、XRPを中心とした送金インフラを提供してきたが、今後はトークンの保管・交換・資産運用の全体プロセスをカバーする金融プラットフォームを志向する。
今回のHidden Road買収は、まさにその「戦略的転換」を象徴する動きだ。ガーリングハウス氏は、「上場(IPO)は当面の優先事項ではない」と述べており、現在は民間資本による規模拡大と収益力強化に集中している様子がうかがえる。
買収手続きは規制当局の承認を経て、2025年第3四半期に完了予定。
まとめ
RippleによるHidden Roadの買収は、デジタル資産業界におけるインフラ整備の進展と、ステーブルコインの実用化を象徴する出来事だ。伝統金融の信頼性とブロックチェーンの効率性を融合させる取り組みは、業界全体の信頼回復と制度化に向けた大きな一歩となるだろう。
今後の展開次第では、Rippleが「次世代の金融機関」として再定義される日も近いかもしれない。