ビットコインの本当の歴史

ビットコインの誕生

2008年11月1日にサトシ・ナカモトと名乗る人物が『Bitcoin: A Peer to Peer Electronic Cash System』という題名のビットコインのコンセプトを記した論文を発表しました。このコンセプトは、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)という仕組みとブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳を利用して、ピア・ツー・ピア型の電子キャッシュ・システムを構築するというものでした。1)Wallace, Benjamin (2011年11月23日). “The Rise and Fall of Bitcoin”. Wired. オリジナル2013年10月31日時点によるアーカイブ。 2012年10月13日閲覧。 サトシ・ナカモトは2009年1月3日にビットコインの最初のブロックを生成し、その5日後『Bitcoin V0.1』としてソースコードを一般公開しました。そして、アメリカのコンピューター科学者で2004年にプルーフ・オブ・ワークを応用したリユーザブル・プルーフ・オブ・ワーク(RPOW)を作ったことでも知られるハル・フィニーが、同年1月12日にサトシ・ナカモトからビットコイン(10BTC)の最初の送金を受け取りました。世界で最初のビットコインによる物品の購入は、2010年5月22日にプログラマーのラズロ・ハニエツによって行われたピザの購入だと言われています。このときパパ・ジョンズの2枚のピザの対価として1万BTCが支払われました。ビットコインの発行上限は約2100万BTCであり、ブロックチェーン技術により発行上限を変更できないようになっています。マイニング(採掘)と呼ばれるプロセスを通じてBTCという電子通貨がネットワーク参加者に公平に分配が行われるのが本来のコンセプトであり最大の魅力です。

このようにサトシ・ナカモトによって提案されたコンセプトを元に実証実験として開発が始まったビットコインでしたが、開発を進めるうちにスケーラビリティの問題が存在することが明らかになってきました。ビットコインは理論上、最大でも1秒間に7回の取引しか処理することができません。この理論上の上限を上げるためにはデータを格納するブロックサイズを増やす必要があります。しかし、中国や新興国のネットワーク回線は大きなブロックを扱えるほど高速ではないため、ブロックサイズを増大させることはビットコインの性能を上げる一方でネットワークの分散化を阻害することになります。このビットコインが抱える潜在的な問題についてサトシ・ナカモトは2008年11月に次のように述べています。

サトシ・ナカモト:
「帯域幅はあなたが考えるほど高額ではないかもしれません。標準的なトランザクションはおよそ400バイトです(ECCは非常にコンパクトです)。各トランザクションは2回ブロードキャストされるので、1トランザクションあたり1キロバイトとしましょう。ビザが2008年度に処理したトランザクションは370億トランザクションで、平均で1日あたり1億トランザクションでした。それぐらいのトランザクションには100GBの帯域が必要でしょう。DVDなら12枚、HD品質の動画なら2本分のサイズ、もしくは現在の価格で約18ドル相当の帯域幅です。もしビットコインのネットワークがビザと同じくらいの大きさになるとしたら、それには数年かかるでしょう。そして、それまでには2本のHD動画と同じくらいのデータをインターネットで送ることは大したことではなくなっているはずです。」

出典:『Re: Bitcoin P2P ecash paper』サトシ・ナカモト

そして、ビットコインの黎明期に約100万BTCをマイニングしたサトシ・ナカモトは、2010年中頃にネットワーク・アラート・キーとビットコイン・コアのリポジトリをギャビン・アンドレセンに譲渡して表舞台から姿を消しました。ギャビン・アンドレセンはサトシ・ナカモトに技術供与を行っていたビットコイン・プロジェクトの中心的な人物であり、同氏はビットコイン・フォーセット(Bitcoin Faucet)というウェブサイトを通じて訪問者にビットコインの配布を行っていました。これによりギャビン・アンドレセンがビットコイン・プロジェクトの事実上の後継者になりました。プロジェクトを譲り受けたギャビン・アンドレセンは2012年9月に設立されたビットコイン財団の主任開発者兼チーフサイエンティストに就任しました。

 

価格高騰とマウントゴックス事件

2010年7月、P2Pファイル共有ネットワークのイー・ドンキー(eDonkey)の共同創設者として知られるジェド・マケーレブは、トレーディングカード交換所として設立された会社を事業転換し、ビットコイン取引所の『マウントゴックス』(Mt.Gox)を設立しました。この社名の『Mt.Gox』は、Magic: The Gathering Online eXchangeを略したものとされています。現在のビットコインは投機の側面が強く殆どの人達が知らないようですが、じつはビットコインというのは本来は購入して使うものではありません。マイニング(採掘)と呼ばれる仕組みを通じて誰もが公平に得ることが出来るというのがビットコインの本来のコンセプトでした。

しかし、マウントゴックスのような取引所が設立されたことにより、ビットコインと法定通貨の取引が活発になり、ビットコインの投機としての側面が強調されるようになりました。また、取引所を通じてビットコインを換金できるようになったことから、マイニングを金儲けの手段と捉える人達が多くなりました。ここに目をつけたのが中国人です。ビットコイン取引所が生まれたことでマイニングを独占しようと大規模なマイニング工場が設立されるようになり、結果的にビットコインはその本来のコンセプトとは逆に電気代の安い中国に集中化する原因となりました。これにより、ビットコインは中国人が独占的なマイニングで得たコインを取引所で販売するだけの中央集権化されたコインになってしまいました。

2011年3月、マウントゴックス創業者のジェド・マケーレブはマウントゴックスを売却し、ビットコインの問題を克服する新しい暗号資産の開発に取りかかりました。この新しいコンセプトの暗号資産は後にXRPとしてリップル・ソリューションのコアとしての役割を担うことになります。そして、マウントゴックスはフランス人経営者のマルク・カルプレスの手に委ねられることになりました。

2012年に1000円前後で推移していたビットコインの価格は、2013年に10万円を超えました。この主な要因は、2013年にキプロスで発生した金融危機だったと言われています。キプロスはタックスヘイブンとして知られ、これまで世界中の富裕層の資産をプールしてきました。金融危機の際にキプロスはEUに助けを求めましたが、EUは銀行預金に対する課税を支援の条件としたため銀行預金が封鎖される事態へと発展したのです。これにより富裕層のお金の逃げ道としてビットコインが買われることになりました。結果的に2013年の1年間だけで、ビットコインの価格はおよそ100倍に高騰しました。ビットコインの価格急騰のニュースは世界中を駆け巡り、何の経緯も知らない一般の消費者がテレビや新聞の報道を見てビットコインに群がりました。この頃までに世界のビットコインの70%がマウントゴックスで取引されるようになっていました。

2014年2月、マウントゴックスが大規模なサイバー攻撃を受け、顧客が預けていた75 万BTCと預り金28億円、そして自社保有の10万BTCの資産を失いました。この盗難事件によるマウントゴックスの被害額は450億円にも上ると言われています。東京地裁が民事再生法適応申請を棄却したことから、マウントゴックスは破産手続きを開始しました。これによりビットコインの価格は一時18000円台まで下落しました。

 

ビットコイン財団の不祥事

マウントゴックス事件が発生する一カ月前の2014年1月、ビットコインのアーリーアダプター(初期の参加者)でビットコイン財団副会長のチャーリー・シュレムとBTCキングとして知られるロバート・ファイエラが逮捕されました。チャーリー・シュレムは初期のビットコイン取引所として知られるビットインスタント(BitInstant)の運営者で、連邦検事のプリート・バララが出した声明によると、チェーリー・シュレムとロバート・ファイエラはインターネット上の闇取引サイト(ダークウェブ)の『シルクロード』を通じて違法薬物を売買する犯罪者らに、およそ100万ドル(約1億200万円)相当のビットコインを販売したとする容疑が持たれていました。後に2人は刑が確定し服役することとなりました。ビットコインを主導する団体から逮捕者が出たことで世間のビットコインに対する印象はグレーなものになりました。

※チャーリー・シュレムが経営するビットインスタントは、資産家のウィンクルボス兄弟から出資を受けたことでも知られています。

さらに2015年4月、ビットコイン財団の新理事に就任したオリバー・ジェンセンが、同財団が事実上の破綻状態にあることを内部告発しました。ビットコイン財団の年会費は、個人向けが25ドル以上、企業向けは1000ドル以上で、同財団の資産総額は2013年度末には470万ドルでした。これは表向きにはビットコインの普及のためという名目で個人や企業から集められたお金でしたが、オリバー・ジェンセンの告発ではそのお金が無くなってしまっていることが暴露されました。470万ドルもの大金が消えたことで、ビットコイン財団に対して更なる疑惑の目が向けられることになりました。この事件で主任開発者のギャビン・アンドレセンと同じくビットコイン開発者のウラジミール・ファン・デル・ラーン、コリー・フィールズが同財団を去りました。そして、3人はMITメディアラボのデジタル通貨イニシアチブのメンバーとしてビットコインの開発を継続することになりました。尚、同財団はチャーリー・シュレム(シルクロード事件で逮捕・服役)、マルク・カルプレス(マウントゴックスCEO)、ロジャー・バー(ビットコイン・ジーザス)、ギャビン・アンドレセン(サトシ・ナカモトの後継者)、ピーター・ヴェッセンによって設立されましたが、事件当時、同財団に残っていた設立メンバーはギャビン・アンドレセンだけでした。

 

内紛と分裂の始まり

2015年8月、ビットコイン財団を離れたギャビン・アンドレセンは、ブロックサイズに起因したビットコインのスケーラビリティ問題を解決するため、グーグル出身のビットコイン開発者のマイク・ハーンと共にブロックサイズを拡張したビットコインXTをリリースしました。しかし、ビットコインネットワークのハッシュパワーを独占する中国人マイナーからの賛同が得られず、セグウィット(SegWit)という仕組みを推進したいグレゴリー・マクスウェルやピーター・トッドなどの他のビットコイン開発者もこの提案を拒んだことから、ビットコインのブロックサイズ拡張は実現されませんでした。

2016年1月、ビットコイン開発者のマイク・ハーンがビットコイン・プロジェクト内の内紛に関する内部告発を行い、彼が5年以上を捧げたビットコイン・プロジェクトを去りました。この声明の中で、マイク・ハーンはビットコイン・プロジェクトがブロックサイズの拡張案を拒んだグレゴリー・マクスウェルによって乗っ取られてしまっていることを示唆しました。グレゴリー・マクスウェルはサトシ・ナカモト論文を否定する風変わりなビットコイン開発者としても知られていました。2014年のコインデスクの取材に対し、マクスウェルは「ビットコインが初めに出てきたとき、俺は暗号化メーリングリストにいたんだ。サトシ論文が出てきたときは笑ってしまったよ。だって俺は分散コンセンサスが不可能だととっくに証明してたんだから。」と答えています。

内部告発文書の中でマイク・ハーンはグレゴリー・マクスウェルの言動を次のように痛烈に批判しました。

マイク・ハーン:
「『ビットコインの偉大なことの1つは民主主義の欠如』なので、投票は忌むべき行為だとグレゴリー・マクスウェルは言いました。だから彼はXTを完全に抹殺するためにありとあらゆることをすることを決め、ビットコインの主要なコミュニケーション・チャンネルの検閲を開始し、『ビットコインXT』という言葉を含む投稿を彼が管理しているディスカッション・フォーラムから削除し、公式のbitcoin.orgウェブサイト上でXTについて議論することやリンクが出来ないようにしました。もちろん、他の検閲されていないフォーラムにユーザーを誘導しようとする人も締め出されました。膨大な数のユーザーがフォーラムから追放され、意見を表明することが出来なくなりました。」

出典:『The resolution of the Bitcoin experiment』

この頃、既にビットコインの開発メンバーの半数がグレゴリー・マクスウェルがCTO(最高技術責任者)を務めるブロックストリーム社の従業員で構成されるようになっていることがビットコイン・コミュニティの中で問題視されていました。グレゴリー・マクスウェルはオープンなビットコインの仕組みに反し、ビットコインに関する意見交換が行われるコミュニティ・フォーラムの検閲を開始し、彼の意見に反する主要なビットコイナー達が次々とコミュニティから追い出されることになってしまいました。イーサリアム・プロジェクトの共同創設者でブロックチェーン業界で主導的な役割を果たしてきたヴィタリック・ブテリンは、後にビットコイン・コミュニティの検閲について次のように述べています。

ヴィタリック・ブテリン:
「ビットコイン・サブレディット板の検閲について非常に残念だと思っています。そして、それは私たちが暗号通貨とブロックチェーンのエコシステムの中で実現・サポートしたい価値の種類とは完全に正反対のものだと考えています。例えば、最新のビットコイン・キャッシュのハードフォークを見ると基本的に全てのディスカッションが禁止され、彼らによってビットコイン・キャッシュを『ビーキャッシュ』と名付けられた一つのスレッドに置き換えられました。これはまるでビットコイン・キャッシュがアルトコインの一つで、ビットコインとは関係のないものであるかのように勘違いさせるための意図的な謀略です。こういう例は他にも沢山あります。だから、私はビットコインのエコシステムと他の多くの暗号通貨エコシステムの両方にいる多くの人々が、これらのことについて残念に感じているのは間違いのないことだと思っています。」

出典:『Vitalik Buterin on /r/Bitcoin censorship』

一方で、サトシ・ナカモトからビットコイン・プロジェクトを引き継いだギャビン・アンドレセンは、マイク・ハーンの声明に対し「マイクは悲観的すぎる。」と楽観的な見解を示していました。

この判断が後にビットコイン・プロジェクトの致命的な分裂を生むことになります。

 

サトシ・ナカモトが名乗り出る

2015年10月、ラスベガスで開催されたビットコイン投資家のカンファレンス『Bitcoin Investor Conference』にオーストラリア人のクレイグ・ライトという人物が登壇しました。

2015年12月、アメリカのテクノロジー雑誌のワイアードと同じくアメリカのテクノロジーメディアサイトのギズモードの2社による並行調査で、コンピュータ科学捜査の専門家であるオーストラリア人のクレイグ・スティーブン・ライト博士(クレイグ・ライト)がビットコインの発明者である可能性が指摘されました。

後にこの情報はセキュリティ研究者でダークウェブのアナリストとして活動しているグウェン・ブランウェン(仮名)にサトシと近しい人物から匿名で提供され、2015年11月上旬にギズモードに提供されたことがわかりました。ギズモードに送られたメールにはクレイグ・ライトがサトシ・ナカモトである証拠が添付され、本文には「私はサトシ・ナカモトをハックした。添付ファイルはすべて彼のビジネスアカウントから取得したものだ。サトシはクレイグ・ライト博士である。」と書かれていました。

ワイアードの報道の数時間後、オーストラリア連邦警察はクレイグ・ライトのシドニーの自宅と関連する事業所に踏み込みました。AFPは、この捜査がオーストラリア国税庁の調査の一環であると伝えました。この事件後、クレイグ・ライトは即座に全てのソーシャル・メディアを削除し、これらの報道を否定しました。

[参考]セキュリティ専門家のクレイグ・ライト博士

しかし、クレイグ・ライトは2016年5月2日についに自分がサトシ・ナカモトであるとイギリスの公共放送局BBC、英誌エコノミスト、米誌GQに対して明かしました。そして、その主張はビットコイン財団のジョン・マトニス事務局長とサトシ・ナカモトからビットコイン・プ ロジェクトを引き継いだギャビン・アンドレセン、そして2005年に『三式簿記』を提唱したことで知られる暗号研究者のイアン・グリッグにより裏付けられました。ジョン・マトニスは「クレイグはブロック・ナンバー1で新規に生成されたコインとブロック・ナンバー9で新規に生成されたコインに紐づく秘密鍵を使用してメッセージの署名と検証を行った。」と述べ、クレイグ・ライトはBBCの取材に対し「最初のビットコイン取り引きとして2009年1月にハル・フィニー(暗号研究者)に10ビットコインを送るのに、これらのブロックを使った。」と説明しました。さらに同日、ギャビン・アンドレセンは自身が運営するブログの中で、クレイグ・ライトとメールのやり取りを行い同氏に会うために数週間前にロンドンを訪れ、実際に本人との会話をする中で合理的な疑問を超越してクレイグ・スティーブン・ライトがサトシ・ナカモトであることを確信したと説明しました。そして、同氏は「改ざんされていないクリーンなコンピュータでサトシ・ナカモトしか持ち得ないキーを利用したメッセージの慎重な暗号検証に時間を費やしたが、もはやその検証に使われたキーを目撃する以前に自分の隣に座っている人物がビットコインの生みの親であることを合理的に確信していた。」と述べました。

そして、BBC(英国放送協会)は同日、クレイグ・ライト博士へのインタビューの様子を全世界に向けて放送しました。このインタビューでは、クレイグ・ライトと記者との間で次のようなやり取りが行われました。

ビットコインの主任開発者兼チーフサイエンティストのギャビン・アンドレセンとビットコイン財団の事務局長で経済学者のジョン・マトニスが述べたとおり、クレイグ・ライトはサトシ・ナカモトしか持ち得ない秘密鍵を利用してメッセージに署名を行い、サトシ・ナカモトの公開鍵を利用してそのメッセージがサトシ・ナカモトの秘密鍵で署名されたことが検証されました。

ライト氏は初期のブロックに紐付く秘密鍵を使用して「Gavin’s favorite number is eleven. CSW」(ギャビンの好きな数字は11です。CSW)という任意のメッセージに署名を行いました。署名されたメッセージはUSBスティックに入れられ、新品のラップトップに移され検証が行われました。これにより、署名が有効なことが明らかになりました。

出典:BBC『Has Craig Wright proved he’s Bitcoin’s Satoshi Nakamoto?』

さらに、クレイグ・ライトは2013年4月にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の合併症により急逝したコンピュータ・フォレンジクス(コンピュータ科学捜査)の専門家のデーブ・クレイマンがホワイトペーパーの主筆であり、ビットコインの誕生に大きく貢献したと説明しました。デーブ・クレイマンは2011年にクレイグ・ライトと共同でビットコインマイニング企業のW&Kインフォ・ディフェンス・リサーチ社を設立していました。これに加え、クレイグ・ライトは『ジャン=ポール・サルトル、署名と意義』と題したブログ記事の中で、サトシ・ナカモトと自身を関連付ける情報を公開しました。

しかしながら、ギャビン・アンドレセン等による署名検証がビットコインのブロックチェーン上で行われなかったことや、クレイグ・ライトによって5月2日にブログで公開された情報が同氏とサトシ・ナカモトを結び付ける証拠としては不十分であることを理由に、ギャビン・アンドレセン等が提案するブロック拡張案を拒否するビットコイン・コミュニティのグループを中心にクレイグ・ライトによる暗号検証は無効であるとする意見が出ました。

これに対し、2016年5月2日にニューヨークで開催されたブロックチェーン・イベントの『コンセンサス2016』に出席したギャビン・アンドレセンは次のように述べました。

ギャビン・アンドレセン:
「彼のブログ上での証明はとても風変わりです。そして、私はそれについては話すことがありません。」

「私は彼がメッセージに署名して、私が提供したUSBスティックにそれを入れるのを見ました。そして、そのメッセージは私が検証ソフトウェアのダウンロードを確認したクリーンなコンピュータ上で検証されました。そのコンピュータは工場出荷状態の未開封の箱から開梱されたものです。そして、そのメッセージは私が彼に提供したものであり、つまり私が選んだメッセージです。だから、私はその秘密鍵を彼が保有していることを確信しています。ですから、私は彼がなぜこんな風変わりで複雑なことを(彼のブログ上で)したのかは分かりません。」

出典:『Bitcoin Creator Reveals Himself (Again); Cryptographers Say Evidence Is ‘Clever’ But Not Proof』

※BBCの取材に対し、ギャビン・アンドレセンは「メールのやり取りを行い懐かしさを覚えました。そして、ロンドンで彼の持つキーで署名されたメッセージを見て確信しました。」と語った。

しかし、ビットコイン・コア開発チームの公式ツイッター・アカウントから「現時点でビットコインの創設者であることを暗号学的に証明できた人物は誰もいない。」というツイートが発信され、開発者の一人であるピーター・トッドも「ご参考までにギャビン・アンドレセンのコミット権限は抹消されたよ。コア・チームのメンバーは彼がハッキングされたことを懸念している。」とツイートしました。

これにより、サトシ・ナカモトからビットコイン・プロジェクトを継承したギャビン・アンドレセンは、ビットコインのソースコードを変更する権限を失いました。一連の反対派の主張が過熱する中、メッセージの署名と検証に立ち会ったビットコイン財団のジョン・マトニス事務局長は同年5月5日にツイッター上で「初期のビットコインブロックからのオンチェーンの署名は存在しないが、他にサトシも存在しない。」という見解を示しました。

これらの出来事から半年経った2016年11月16日にギャビン・アンドレセンは自身のブログで改めて次のように見解を語りました。

ギャビン・アンドレセン:
「半年が過ぎ去った今、私は今でもクレイグ・ライトがサトシだったと思うかどうか尋ねられます。私は2つの可能性があると思います。彼はサトシであったが世界にはそうではないと考えて欲しいと強く願っているため、彼は解決不可能な真実と半真実と嘘の網を張り巡らせました。そして、その過程で彼は社会的な信用を失いました。もし彼がサトシだったなら、我々は彼の匿名でいたいという意思を尊重して彼を放っておくべきです。もう一つの可能性は、彼が数年間に渡って数人の非常に頭の良い人々を騙すことに成功した詐欺とペテンの達人であることです。この場合には、彼の詐欺の被害者と被害者の代わりに働く法執行機関を除く全ての人々は彼を放っておくべきです。だから、彼がサトシであったにしろそうでなかったにしろ、私たちは彼を放っておくべきです。私はこれまで『誰がサトシだったか』ゲームに夢中になっていたことを後悔しており、もっと楽しく生産的な探求に私の時間を費やすつもりです。」

出典:『Either/or : ignore!』

これは様々な議論が生じる中でも彼がクレイグ・ライトをサトシ・ナカモトであると信じていることを示唆するとともに、世界中の人々がクレイグ・ライトの周辺で起きている騒動に関わらないことを望む彼の意思表示でもありました。

 

中央集権化と分裂

2017年4月、ビットコイン開発の事実上のリーダーとなったグレゴリー・マクスウェルが中国のマイニング企業であるビットメイン社が開発・販売するマイニングチップをリバースエンジニアリングしたところ、ASICブースト(エイシック・ブースト)と呼ばれる技術を用いてビットコインのマイニングの計算を高速化していることが発覚しました。

ASICブーストはティモ・ハンケとセルジオ・デミアン・ラーナーにより考案されたとされるビットコインの仕組みの脆弱性を利用してマイニングを約20%高速化する技術で、2014年11月に特許が申請されました。しかし、ビットメイン社はこのASICブーストの特許を中国で取得してアントマイナー(Antminer)と呼ばれる同社が開発・販売するASICに組み込みました。分散型ファイル転送用プロトコルのビットトレント(BitTorrent)の開発者でグレゴリー・マクスウェルと同じくセグウィットの実装を肯定するブラム・コーエンは、これについてツイッター上で次のように述べています。

ブラム・コーエン:
「ビットメイン社は考案者の承諾を得ずにASICブーストに関する中国の特許を取得した。可愛くない?」

中国企業がビットコインのマイニングに関する特許を取得したことにより、ビットコインに突如として特許問題が浮上しました。そして、オリジナルのコンセプトのビットコインは「ジハンコイン」などと呼ばれるようになってしまいました。セグウィットを実装することでASICブーストの問題は解決するため、これはセグウィットを推進するビットコイン開発プロジェクトのグループにとっては追い風となりました。

しかし、セグウィットを実装したビットコインはサトシ・ナカモト論文に忠実な仕組みではなく、更にRBF(Replace by Fee)という機能を利用して手数料を上乗せすることで二重支払いによる支払いの取り消しが可能であることから、ビットコインのコンセプトから大きく外れるとして批判を受けました。この批判に対してセグウィットを推進するグループは、「ビットコインは支払い手段ではなくデジタル・ゴールドとして機能するもの」と反論しました。

セグウィットの提案のもう一つの問題は、セグウィットを実装したビットコインではASICブースト(所謂チートマイニング)を行えないことから主要なマイニング企業からの賛同が得られなかったことです。そこでプルーフ・オブ・ワークの仕組みとは関係なく取引所が主導してセグウィットを導入するための『UASF』(ユーザー・アクティベート・ソフトフォーク)という手法が提案されました。UASFという手法では、主要な取引所が結託してセグウィットを実装していないブロックをブロックチェーンに追記しないようにするため、セグウィットを採用していないコインを取引所で売買が出来なくなります。その結果、マイナーはセグウィットを実装したブロックをマイニングせざるを得ないという仕掛けです。こうしてUASFにより追い詰められた大手のマイナーは、最終的にセグウィットを実装することに賛成するしかなくなりました。しかし、プルーフ・オブ・ワークの仕組みとは関係なく、主要な取引所の多数決によりブロックが承認されるUASFという仕組みが確立されたことは、ビットコイン・コミュニティの分裂の大きな火種となりました。

さらにグレゴリー・マクスウェルは、マイク・ハーンやギャビン・アンドレセンがビットコイン・プロジェクトで大した役割をしておらず、プロジェクトの広報として働いていたので注目を集めるようになっただけだという趣旨の発言をしました。これに対し、サトシ・ナカモトからプロジェクトを継承したギャビン・アンドレセンは次のように述べました。

ギャビン・アンドレセン:
「グレッグはマイクの立場について勘違いしています。私は彼をグレッグより先にコミッターとして招きましたが、マイクが辞退したのです。グレッグをコミッターにしたのは大きな失敗でした。」

 

ビットコインキャッシュの誕生

グレゴリー・マクスウェル等のグループがUASFという強硬な手段でビットコインへのセグウィットの実装を行おうとする中、プルーフ・オブ・ワークの仕組みを尊重してブロックサイズの拡張を行いたい反対派のグループは、ついにビットコインのハードフォークを行うことを決定しました。そして、2017年8月1日にビットコインのハードフォークが開始され、ビットコインキャッシュと呼ばれるブロックサイズを8メガバイトに拡張したビットコインが誕生しました。これにより、ビットコインはセグウィットを実装した『ビットコインコア』とブロックサイズを拡張した『ビットコインキャッシュ』という2種類のコインに分裂してしまいました。そして、Bitcoin.comは同年10月に『ビットコインキャッシュがビットコインです』(Bitcoin Cash is Bitcoin)と題する声明を出しました。

「『ビットコインコア』を自称するグループは、ビットコインはお金になることを意図されたものではなく、結局のところ新しい投機的な資産クラスでしかないと主張し始めました。彼らはまた、ビットコインを定義する機能の多くを取り除き、取引を可逆的にし(「replace by fee」)、『セグウィット』と呼ばれるものを付け加えることで数学的にビットコインの安全性を保証するデジタル署名データを剥ぎ取りました。論文が目指すゴールに反するこのグループには基本的なビットコインの原理を象徴する能力がないばかりか、彼らには本来の支払いに関連するバリュープロポジションを進めることは出来ません。確かにこのグループ内の人々は献身的で才能があります。しかし、上記の事実を考慮すれば、このようなグループが彼らの名前に『ビットコイン』という単語を正当に使用する資格はありません。むしろセグウィットコアが適当です。」

出典:Bitcoin.com『Bitcoin Cash is Bitcoin』和訳

そして、サトシ・ナカモトからビットコイン・プロジェクトを継承したギャビン・アンドレセンも、ビットコインコアとビットコインキャッシュに分裂したビットコインに関して次のような見解を示しました。

ギャビン・アンドレセン:
「ビットコインキャッシュこそが私が2010年に取り組み始めた価値の保存と交換手段を備えたものです。」

さらに2017年12月、ビットコインの初期の開発者でBIP(Bitcoin Improvement Proposals)の創始者のアミール・ターキは、ビットコイン・プロジェクトが失敗し、崩壊に向かっていることを警告するツイートをしました。

アミール・ターキ:
「ビットコインは失敗プロジェクトになりつつある。それは数値的な価格上昇と神聖な教理によって盲目にされたコミュニティの残骸の中の滅びの種だ。ある日あなたは私の言葉を理解するが、その時には手遅れだ。既に船は出航しているだろう。」

BIP創設者のアミール・ターキからの警告に対し、イーサリアム・プロジェクト共同創設者のヴィタリック・ブテリンはクリプト・コミュニティに次のように呼びかけました。

ヴィタリック・ブテリン:
「イーサリアムを含む『すべての』クリプト・コミュニティはこれらの警告の言葉に注意して耳を傾けるべきです。何千億ドルものデジタルペーパー資産が急増していることと、実際に社会にとって意味のあることを達成していることを区別する必要があります。コミュニティが正しい方向に進むことが出来ることに私はまだ多くの希望を持っていますが、私たちが成し遂げることの全てがランボルギーニ・ミームと『排便』についてのくだらない駄洒落ならば私は去ります。」

さらに一週間後の翌年1月4日、ビットコイン財団元理事のオリバー・ジェンセンが同様の警告を発しました。

オリバー・ジェンセン:
「ビットコインコアのドミナンス(占有率)は33%を下回り、ハイプの終焉とともに急速に下がっています。マーケットとニュースは、70%を超えるアドレスが高い手数料のために送金ができない資産を抱える使い物にならない通貨とハイジャックされたプロジェクトの現実に気付きつつあります。すぐに失脚するでしょう。」

しかし、これらの有識者による警告は多くのユーザーの目に届くことはありませんでした。

 

ビットコインの脆弱性が露呈

2018年3月、ドイツのアーヘン工科大学とヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マインの2つの研究グループが、『ビットコインの恣意的なブロックチェーン・コンテンツが与える影響の定量分析』と題する論文で、ビットコインのブロックチェーン上に児童ポルノ画像や児童ポルノサイトへの大量のリンクが含まれており、これを扱う産業が犯罪に巻き込まれる可能性があると発表しました。研究チームによると、ビットコインで共有されているファイルの99パーセントはテキストまたは画像で構成されており、少数のファイルに性的な内容が含まれていることが確認されました。

「ビットコインのブロックチェーンには、性的内容を含む少なくとも8つのファイルが含まれています。5つのファイルはソフトポルノ・コンテンツの表示、説明、またはリンクしかしていませんが、残りの3つのインスタンスはほぼ全ての地域で好ましくないとされるものだと我々は考えています。そのうちの2つは児童ポルノへのリンクリストのバックアップで、274のウェブサイトへのリンクが含まれており、そのうち142のウェブサイトがTorの隠しサービスを参照しています。」

「裁判の判決はまだ存在しませんが、ドイツ、イギリス、アメリカなどの国の法律は、児童ポルノなどの違法なコンテンツが全てのユーザーにとってビットコインのブロックチェーンの所有自体を違法にすることを示唆しています。」

出典:『A Quantitative Analysis of the Impact of Arbitrary Blockchain Content on Bitcoin』

あまり知られていないことですが、ビットコインのブロックチェーンには分散型ファイル共有ソフトのようにデータを共有する機能があります。このドイツの研究チームによる調査結果は、ビットコインを保有することに一定の法的なリスクを負う可能性があることを示唆する内容のものでした。

さらに2ヶ月後の2018年5月、ビットコイン・ブロックチェーンの安全神話を覆しかねない事件が起こりました。ビットコインと同じプルーフ・オブ・ワーク方式のブロックチェーンを採用するモナコインにおいて、『セルフィッシュ・マイニング』(利己的なマイニング)を利用した攻撃が実際に行われて成功しました。このセルフィッシュ・マイニングを利用した攻撃は、『ブロック非公開攻撃』(block withholding attack)と呼ばれています。この攻撃によりモナコインのブロックチェーンは最大で24ブロック、8回に渡ってブロックチェーンの大規模な巻き戻しが起こりました。

プルーフ・オブ・ワークを採用するビットコイン方式のブロックチェーンを攻撃するためには、理論上51%以上のハッシュレートを保持することが必要というのがサトシ・ナカモト論文の主張です。しかし、このセルフィッシュ・マイニングを利用したブロック非公開攻撃では、たったの30%前後のハッシュレートだけでブロックチェーンへの攻撃が理論上可能であることが予てから指摘されていました。この脆弱性はコーネル大学(米国)のイッテイ・エーヤルとエミン・ガン・シラーの『過半数では不十分:ビットコイン・マイニングは脆弱である』という論文で2013年に最初に指摘され、さらにヘブライ大学(イスラエル)のアイアレット・サピルステイン、ヨナタン・ソンポリンスキー、アビブ・ゾハールの『ビットコインにおける最適なセルフィッシュ・マイニング戦略』という論文で2015年にも指摘されていました。これについては日本でもブロックチェーン技術の専門家たちが警鐘を鳴らしてきました。

「これまで、ビットコインのマイニングノードがブロックを生成する確率は、そのノードが持つ計算パワーに比例すると想定されていた。しかし、そのノードがセルフィッシュ・マイニングと呼ばれる戦略を取ることで、自身が持つ計算パワーより大きな確率で、ブロック生成に成功することが分かってきた。具体的には、全体の41%しか計算パワーを持っていなくても、2分の1以上の確率でブロックを生成できることが理論的に示されたのだ」

「この戦略をとると、マイニングノードが全体の約33%以上の計算パワーを持っていた場合に、実質的にはそれ以上の確率でブロックを生成でき、41%を保有するノードは50%以上の確率でブロックを生成できる。」

出典:『ビットコインは本当に安全なのか、理論研究が示す意外な落とし穴』

実際に稼働しているブロックチェーンへの攻撃が成功したことで、ビットコインのブロックチェーンへの攻撃に51%のハッシュレートが必要ではないことが証明されました。これに対してプルーフ・オブ・ワークを推進する人達は、攻撃が成功したのは攻撃コストの低いマイナーな通貨であったためという反論をしました。

2019年1月5日、今度はアメリカの大手暗号資産取引所のコインベースからイーサリアムクラシック(ETC)のブロックチェーン上で異常な再編成を確認したため、ETCの取引を停止したという発表がありました。

コインベース:
「2019年1月5日、コインベースは二重支払いを含む大規模なイーサリアムクラシック・ブロックチェーンの再編成を検出しました。顧客の資産を保護するため、我々は直ちにこれらイーサリアムクラシック・ブロックチェーン上の資産の移動を停止しました。」

攻撃コストを公表しているウェブサイトのクリプト51によれば、攻撃が成功したイーサリアムクラシックはプルーフ・オブ・ワークを採用するブロックチェーンの中では8番目に攻撃コストが高く安全な暗号資産であるとされていました。この事件により、同様の攻撃はプルーフ・オブ・ワークを採用する暗号資産の中でもマイナー通貨にしか起こり得ないとする説は完全に否定されました。そして調査の結果、100ブロック超にわたる15件のブロックチェーンの再編成が発生し、12件の二重支払いと21万9500ETC(約1億2000万円)の被害が確認されました。更に追跡を行ったところ、事件の約10日後の1月16日までに盗まれたすべてのETCが取引所に返金されたことが分かりました。そのため、この攻撃はプルーフ・オブ・ワークのセキュリティリスクについて警告をするホワイトハッカーによるものだったのではないかという憶測が広がりました。

しかし、8番目に安全とされるプルーフ・オブ・ワークを採用するブロックチェーンで100ブロック超という非常に大規模なブロックチェーンの再編を起こす攻撃を成功させたこの事件は、ブロックチェーン業界の関係者たちを震撼させました。これは少なくともイーサリアムクラシックよりも攻撃コストが低い暗号資産は、いつ大規模な攻撃を受けてもおかしくないことを意味しています。ところが、暗号資産にこうした様々なセキュリティ上のリスクが存在することを一般消費者に対して積極的に説明しようとする取引所はほとんどありません。日本の消費者契約法に『不実告知』に関する規定があるように、事業者は消費者がさまざまな誤解をしないよう努力する必要があるのではないでしょうか。これは今後の暗号資産とブロックチェーン業界において大きな課題の一つになると言えます。

 

PoWの安全神話が崩壊

2020年8月1日、イーサリアムクラシック(ETC)で再び3693ブロックに及ぶ大規模なブロックチェーンの再編成が起こりました。ブロックチェーン・データ解析ツールを提供するブロックチェーン・フォレンジック企業のBitqueryは、この事件で11件の悪意のあるトランザクションが確認され、560万ドルに相当する80万7260ETCの二重支払いが起こったと報告しました。Bitqueryのレポートによれば、攻撃者はこの攻撃を実行するためにハッシュパワーのマーケットプレイスである『ナイスハッシュ』から19万2000ドル相当のビットコインでハッシュパワーを借りたとしています。

この事件の直後、イーサリアム財団のハドソン・ジェイムソンはツイッターで、「取引所はイーサリアムクラシックの入出金を停止すべきである」と述べました。

このハドソン・ジェイムソンのツイートに対し、イーサリアム・クラシックラボ及びETCコア創設者のジェームス・ウォーも、ETCコアチームが問題に取り組んでおり取引所は入出金を停止する必要があるとコメントしました。

この事件についてBitqueryは、攻撃者がナイスハッシュのプロバイダーの「daggerhashimoto」からイーサリアムクラシックの大部分のハッシュパワーを借り、4日間で4280ブロックをマイニングしたと報告しました。攻撃者は大規模な攻撃を行う前に小規模なマイニングを実行してから止めており、これは普通のマイナーの挙動ではないと分析しました。そして、イーサリアムクラシック・ブロックチェーンで起きた重大事故は、今後いかなるプルーフ・オブ・ワークを採用するブロックチェーンでも起こる可能性があり、このような事故については慎重な分析が必要だと述べました。これに対し、イーサリアム・クラシックラボ創設者のジェームス・ウォーは、一連の出来事は51%攻撃ではないと繰り返しツイッターで主張しました。

2020年8月6日、つまり最初の事故が起きた僅か一週間後、再びイーサリアムクラシックに対して4236ブロックの大規模なブロックチェーンの再編成を伴う51%攻撃が何者かにより実行されました。これにより、168万ドルに相当する23万8306ETCの二重支払いが起こりました。

これについて、イーサリアム・クラシックラボの公式ツイッターアカウントとジェームス・ウォーは、イーサリアムクラシックに対する攻撃は犯罪であり攻撃者とその関係者は責任を負うことになるとコメントしました。

しかし、「51%攻撃」という名前とは裏腹に、プルーフ・オブ・ワークのブロックチェーンでは一番長いチェーンを正しいとするのがそもそもの仕様であるため、運営者と利害が一致する特定のマイナー以外がブロックを生成することを「攻撃」であると断定することは出来ません。プルーフ・オブ・ワークのルールを守ってマイニングを行うことは本来はネットワーク参加者に公平に与えられた権利であり、それがプルーフ・オブ・ワークを採用するブロックチェーンの仕様だからです。つまり、利害関係者が結託して51%のハッシュレートを占有するというのは本来想定された使われ方ではありません。これについて、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリンは、イーサリアムクラシックはプルーフ・オブ・ステイクに移行すべきだと述べました。

2020年8月30日、イーサリアム・クラシックで同月3回目の51%攻撃が発生したことが確認されました。この攻撃では1回目と2回目の攻撃を遙かに超える7000ブロック以上の大規模なブロックチェーンの再編成が発生しました。

 


以下、その他の出来事に関するメモ

2018年2月 フィル・ウィルソンがビットコインの共同開発者と名乗り出る

2018年2月にスクロンティ(Scronty)ことフィル・ウィルソンが、Redditに『ビットコインの起源(Bitcoin Orgins)』と題したビットコイン誕生までの膨大な記録を綴った記事を投稿しました。フィル・ウィルソンによれば、クレイグ・ライト、デイブ・クレイマンの2人がオンラインギャンブルで利用する電子マネーの開発をフィル・ウィルソンに依頼したことが発端で、ビザンチン将軍問題を解いたのは自分だと主張しました。また、同氏はアメリカで LibertyDollar(自由ドル)と呼ばれる国家から独立した民間通貨を作ったバーナード・フォン・ノンハウスという人物が「アメリカのコインに似たコインを作った」として2011年に有罪判決を受けたことから、当時所有していた4万ドル分のビットコインと自分がサトシ・ナカモトと証明できるデータを全て破棄したと述べました。

※しかし、これらを裏付ける証拠は一切ありません。

 

2018年11月 ウィンクルボス兄弟が5000BTCを盗まれたとしてビットコイン財団元幹部を提訴

ウィンクルボス兄弟はビットコイン財団の元副会長でビットインスタント創業者のチャーリー・シュレムに5000BTC(約36億円)を盗まれたとして提訴しました。

訴えを起こした2人によると、ウィンクルボス兄弟が設立したファンドは2012年9月にチャーリー・シュレムが運営するビットインスタント取引所に投資として25万ドルを渡したが、チャーリー・シュレムはその全額をビットインスタントに投じず、さらに1ヶ月後に返済されたのは18万9000ドル相当のビットコインだけだったとのことです。裁判官はチャーリー・シュレムの資産の一部を凍結することに同意し、さらに裁判所に提出された宣誓供述書から同氏が2014年に有罪判決で決定した賠償金の95万ドルを支払っていないことが明らかになりました。

 

2019年4月 ビットコイン取引の95%が偽装と判明

アメリカのサンフランシスコに本拠地を置くビットワイズ・アセットマネジメントが世界の81の交換所を対象に売買状況を分析したところ、ビットコイン売買の95%の水増しであることが判明し米証券取引委員会(SEC)に報告書を提出しました。これにより米コイン・マーケット・キャップが結果的に水増しされた売買データを掲載していたことが判明しました。

 

2019年8月 米連邦裁判所がクレイマンの遺族にクレイグ・ライトが保有するBTCの相続権を認める

アメリカの連邦裁判所は、クレイグ・ライトが保有する『チューリップ・トラスト』と呼ばれる白紙委任信託(ブラインド・トラスト)に預けられた110万BTCとビットコインに関連する特許権について、サトシ・ナカモト論文の主筆であるデーブ・クレイマンの遺族に相続権があると認めました。

 

2019年8-9月 ビットコインの開発を主導するブロックストリーム社の幹部

スピンドルの宣伝でお馴染みのリナさんと仲良くするブロックストリーム社幹部のサムソン・モウ氏。ツイッター上にこのような画像がたびたび投稿され一部で物議を醸している。

 

2020年11月 イーサリアムで大規模障害が発生

2020年11月、イーサリアムクライアントの『Geth』(Go-Ethereum)のアップデートに含まれるバグが原因で大規模な障害が起こりました。


コインチェック

出典・脚注   [ + ]

1. Wallace, Benjamin (2011年11月23日). “The Rise and Fall of Bitcoin”. Wired. オリジナル2013年10月31日時点によるアーカイブ。 2012年10月13日閲覧。