リップル社が『PayID』を立ち上げ
しばらく記事を書いていませんでしたが、リップル社から大きな発表と動きがあったので紹介しておきます。昨日、リップル社から『PayID』と呼ばれる仕組みが発表され、フィンテックやブロックチェーン技術に取り組む40以上の企業がこれに参加することが明らかになりました。CNBCに出演した同社CEOのブラッド・ガーリングハウスは、今回発表されたPayIDの基本的なコンセプトを説明しました。
ブラッド・ガーリングハウス:
リップル社は『価値のインターネット』と呼ばれるものを実現しようとしています。これは互いに接続ができない複数の異なる支払いネットワークを相互接続できるようにする試みです。私達が友人にお金を送るときに、「あなたはVenmo(ベンモ)?それともPaypal(ペイパル)を使っている?」とか、海外なら「Alipay(アリペイ)ですか?それともPayU(ペイユー)ですか?」と尋ねた経験があると思います。私が誰かに電話番号を尋ねるときに、「AT&Tの番号?それともVerizon(ベライゾン)?」と聞かないのは面白くありませんか?私はただ電話番号を聞くだけです。PayIDのアイデアの背後にあるのは、電子メールを送るのと同じぐらい簡単な方法で誰にでも簡単にお金を送れるようにすることです。私は誰かに「あなたはGoogleですか?Yahooですか?」などとは聞かず、ただ電子メールを送るだけです。PayIDは、あなたが預金口座を保有しているのが大手銀行であってもカリフォルニアの地方銀行であるバイライン銀行(Byline bank)であっても、ただ”brad$garlinghouse”と入力するだけで「バイライン銀行ですか?それともビットコインですか?」と尋ねなければいけない問題を解決します。
PayIDとは
PayIDはリップル社が参加する『Open Payments Coalition』の取り組みとして発表されました。PayIDとは、複数の異なる支払いアプリ間で電子メールのような国際的に統一された支払先アドレスを共有できる仕組みです。このプロトコルの詳細は、リップル社の4名のエンジニアからホワイトペーパーが公表されています。
具体的には、PayIDを利用することでユーザーは”alice$example.net”のような電子メールに似たアドレス宛に支払いを行うことが可能になります。
Emailにおいて【user@domain.com】という標準化されたアドレスがあるように、送金の世界でも【user$domain.com】といった標準アドレスが必要、という発想から誕生しました。これは価値のインターネットに向けた重要なステップです。
— Emi Yoshikawa (@emy_wng) June 18, 2020
メールアドレスと異なるのは、PayIDがDNSのような仕組みを提供することで、1つの宛先アドレスを複数の異なる支払いネットワークのアドレスに紐付けることが出来ることです。例えば送金人が私のPayIDに対してBTCを送った場合、私がBTCを受け取る手段が無ければXRPや銀行預金口座などの異なる支払いネットワーク上で支払いの受け取りが可能になります。
One of the cool things PayID can do is act as a way to access an array of bridges and conversion services. As services exist to bridge different payment rails, users can have more and more payment combinations “just work”. 2/2
— David Schwartz (@JoelKatz) June 18, 2020
PayIDは様々なユースケースに応用可能な仕組みで、PayIDのウェブサイトではいくつかの基本的なユースケースが紹介されています。
- 個人間の支払い
支払いアプリの利用者は、一意のPayIDアドレスを共有するだけで、異なる支払いネットワークの人々と任意の通貨で支払いを送受信できます。 - eコマースの決済
eコマースの顧客は、支払い方法としてPayIDが提供されている場合、任意のデジタルウォレットを使用して購入を完了することができます。 - サブスクリプションの支払い
企業はPayIDを使用することで、加入者のデジタルウォレットと暗号通貨ウォレットに定期的な支払いをリクエストできます。 - 支払いの請求
サービスプロバイダーはPayIDを使用して顧客のPayIDに請求を直接送信でき、支払い取引を数回のクリックだけで完了することができます。
さらにリップル社CTOのデイビッド・シュワルツは、PayIDの仕組みを利用することで例えば次のようなことが可能になると説明しています。
- PayIDは、暗号通貨支払いシステムに人間が読める支払いアドレスを提供します。
- PayIDは、複数の暗号通貨と法定通貨の支払いシステムに単一の宛先アドレスを提供します。
- PayIDは、暗号通貨企業にトラベルルールなどの規制要件を満たす方法を提供します。
- PayIDは、支払いが正しい宛先に配信されたことを暗号学的に証明することができます。
PayID can do so many things, a thread:
— David Schwartz (@JoelKatz) June 18, 2020
リップル社は同社のブログ上で、このPayIDがRippleNetに統合されると発表しています。
Rippleのグローバルな決済ネットワークであるRippleNetは、クロスボーダー決済にさらなる相互運用性をもたらすためにPayIDを統合しています。
出典:ripple.com
価値のインターネットの実現
リップル社は創業以来、『価値のインターネット』(Internet of Value)というビジョンを掲げています。これは簡単に言えば、インターネット上でメッセージを送るのと同じくらい簡単に価値の交換と支払いが出来るような世界を実現するというビジョンです。
その1つの取り組みとして、リップル社は2015年10月に『インターレジャー・プロトコル』(Interledger Protocol)を発表しました。
インターネット・プロトコル(IP)が複数の異なるネットワーク(LAN、WAN)の接続を可能にしたように、インターレジャー・プロトコルは複数の異なる台帳(レジャー)を接続することを可能にしました。今回発表されたPayIDは、電子メールがグローバルなネットワーク上での単一の宛先アドレスを提供するのと同様に、グローバルな支払いネットワーク上での単一の支払い先アドレスを提供する仕組みです。この仕組みを応用すれば、支払いのたびに相手に「〇〇銀行〇〇支店の口座番号〇〇〇〇に入金してください」と伝える煩わしさから解放され、相手に自分のPayIDを伝えるだけで私が受け取りたい支払いサービス上で支払いを受け取れるようになります。このような価値のインターネットの実現に向けたグローバルな取り組みを具体的に行っている企業がリップル社以外に存在するでしょうか。