– Hidden Road買収と米国市場再進出の意図を語る
暗号資産企業Ripple(リップル)の社長モニカ・ロング氏は、パリで開催されたBlockchain Weekにて米CNBCの番組『Beyond the Valley』に出演し、Rippleの最新事業戦略、米国での規制動向、そして同社が立ち上げた米ドル連動型ステーブルコイン「Ripple USD(RLUSD)」の意義について語った。
ステーブルコイン市場へ本格参入:「送金と資本市場に実需あり」
ロング氏は、Rippleが2024年に発表した米ドル連動型ステーブルコイン「Ripple USD(RLUSD)」について、「単なる仮想通貨トレーダー向けではなく、企業や金融機関による送金や決済の実需を想定したものだ」と説明。従来の国際送金はSWIFTなどの旧来の仕組みを通じて数日かかり、手数料も高い。ステーブルコインを使えば、24時間365日リアルタイムでの資金移動が可能となり、特に通貨が不安定な国々からドルを使いたいというニーズに応える。
「実際、ラテンアメリカやアジアの一部では、ドル建て決済を望む企業が多い。そうした需要に対応することが、私たちがステーブルコインを発行した理由の一つです」(ロング氏)
約12.5億ドルでプライムブローカー「Hidden Road」を買収
Rippleは同時に、ノンバンクのグローバル金融機関「Hidden Road Partners」を約12.5億ドル(約1,800億円)で買収したと発表。Hidden Roadは、年間3兆ドル以上の取引量を誇るプライムブローカー(金融機関の取引支援を行う企業)であり、Rippleにとってはこれまで難しかった本格的な機関投資家向け市場への参入を可能にする大型買収だ。
「この買収により、Rippleは暗号資産業界で初めてノンバンク型プライムブローカーを傘下に持つ企業となりました」(ロング氏)
XRPとステーブルコインは共存:それぞれに役割あり
Rippleの送金システムでは従来からXRPを利用しているが、ステーブルコインを発行したことで「XRPの役割は終わったのか」との見方もある。これに対しロング氏は、「XRPは依然としてXRP Ledgerの基幹通貨として不可欠」であり、ネットワーク上の取引手数料や自動ブリッジ機能などに使われていると説明した。
また、顧客のニーズに応じて、XRPとステーブルコインを使い分ける柔軟な設計になっているという。
Rippleはそれぞれの役割について、XRPは従来どおりクロスボーダー決済におけるブリッジ資産として利用され、ステーブルコインはブロックチェーン金融へのオンランプ・オフランプに利用されるため、XRPとステーブルコインは競合するものではないと説明している。
米国市場に再び注目:SEC訴訟の終結と政権交代で追い風
2023年にRippleが米証券取引委員会(SEC)との訴訟で部分勝訴したことについて、ロング氏は「XRPは証券ではないとする判決を得たことが、事業拡大への大きな転機になった」と述べた。
さらに、米国の政治情勢についても、「SECが過去に行っていた強引な取り締まり(Enforcement-first)が見直され、ステーブルコインに関する新たな立法が両党から支持されている」とし、米国市場への再注力の環境が整ってきたことを示唆した。
「昨年までは米国の銀行は非常に慎重だったが、今ではカストディやステーブルコインの取り扱いに前向きな銀行が増えています」(ロング氏)
資産トークン化にも注力:「株や債券」もブロックチェーンで
Rippleは「不動産や株式、債券などの実物資産をトークン化する」ことにも注力している。これは一部だけ所有できるデジタル証券(セキュリティトークン)を発行し、従来よりも簡単に資産取引を行える仕組みである。
ロング氏は「今後は機関投資家向けを中心に、Rippleのソフトウェア基盤を通じて、銀行や証券会社がこうしたトークン資産を扱えるよう支援していく」と語った。
IPOの可能性は?――現時点では未定
「Rippleは数十億ドルのキャッシュを保有しており、現時点でIPO(株式上場)は急いでいない」とロング氏は述べた。一方で、「買収やグローバル展開には引き続き積極的」とも語り、さらなるM&A戦略が続く可能性を示唆している。
まとめ:Rippleは「送金」から「金融インフラ全般」へ進化
今回のインタビューでは、RippleがXRP中心の送金企業から、ステーブルコイン発行や金融資産のトークン化を手がける金融インフラ企業へと大きくシフトしていることが明確となった。SEC訴訟の影を乗り越えた今、米国市場への再進出や大型買収を通じて、Rippleは新たなステージに突入している。