※このページには、リップル総合まとめ電子書籍の第一章の記事を掲載しています。
Contents
リップルの起源
リップル(Ripple)は、カナダのエンジニアであるライアン・フッガーによって考案された決済プロトコルです。このリップル・プロトコルが現在のリップル社の社名の由来となりました。ライアン・フッガーによって考案されたオリジナルのリップルは、個人が発行したIOUと呼ばれる借用証書を個人間で取引することで、誰もが自らの通貨やクレジットを所有して支払いを行うことが可能な分散型の通貨ネットワークを実現するプロトコルでした。このコンセプトは、2004年に『Money as IOUs in Social Trust Networks & A Proposal for a Decentralized Currency Network Protocol』というホワイトペーパーで同氏から提案されました。彼はこの綿密に考えられたシステムを長年かけて開発し、一人で非営利に運営していました。しかし、時期が早すぎたためか、このシステムとコンセプトが広く世に浸透することはありませんでした。
ライアン・フッガーのRippleプロジェクトについて語るクリス・ラーセン(日本語字幕あり)
ビットコインの誕生
2008年11月1日、サトシ・ナカモトを名乗る匿名の人物によって『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』という論文が発表されました。この論文には、プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW)という認証アルゴリズムとブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology:DLT)を組み合わせて、ビットコインという新しい電子通貨システムを実現するためのコンセプトが書かれていました。2009年1月9日、このアイデアに賛同した有志によってビットコインの最初の実装となるBitcoin V0.1(Bitcoin Qt)がリリースされ、最初のビットコインが発行されました。
分散型台帳とは、簡単に言うとデータを保存するためのデータベースです。これまでの台帳と異なるのは、ユーザーが手元の台帳を書き換えると世界中で同じネットワークに接続している全てのユーザーの台帳も書き換わるという点です。これまで同一の台帳を共有するためには、中央のサーバーで世界中の人々が利用する台帳を集中管理する必要がありましたが、ビットコインは分散型台帳というアイデアでこの問題を克服しました。ビットコインは、ブロックチェーンと呼ばれる台帳にBTCという電子ポイントの取引履歴が書き込まれており、世界中のユーザーがこの取引履歴が書き込まれた台帳を管理・共有する仕組みです。
しかし、ビットコインにはプルーフ・オブ・ワークを利用した認証アルゴリズムに起因する取引時間の長さと、1秒間に処理できる取引回数の上限が理論上たったの数回(3~7回)という性能の問題がありました。これは世界中で支払いに使われているビザのネットワークの取引回数が毎秒1万回に達することを考えるとあまりにも小さな数字です。そして、実際にシステムを稼働させたところ、本来は分散しなければいけないブロックチェーンの承認者(マイナー)が電気代の安い中国に集中してしまい、BTCの公平な分配が行われない問題が発生しました。そして、サトシ・ナカモトはビットコインの黎明期に100万BTCほどを採掘し、2010年にネットワーク・アラート・キーとビットコイン・コアのリポジトリを同氏が絶対的な信頼を置くギャビン・アンドレセンに譲渡して姿をくらませました。
プロジェクトを引き継いだギャビン・アンドレセンは、2015年8月にグーグル出身のコア開発者であるマイク・ハーンとともに単位時間あたりの取引回数の上限を上げるためにブロックサイズを拡張したビットコインXTをリリースしました。これにより、ビットコインの性能問題は一定の解決を見ると思われましたが、ビットコイン・ネットワークのハッシュレートを独占する中国人マイナーとのコンセンサスを取ることが出来ず、システムのアップグレードに失敗してしまいました。サトシ・ナカモトの事実上の後継者であったギャビン・アンドレセンとマイク・ハーンは、数人によって中央集権的に管理されるビットコインがサトシ・ナカモトによって発表された論文のコンセプトに反するとして後にプロジェクトを去りました。しかし、ビットコインが提案した分散型台帳や暗号資産というアイデアは世界中の技術者の注目を集めることになりました。
コンセンサス・アルゴリズムの登場
2011年3月頃、ビットコイン取引所『マウントゴックス』の創業者であり分散型ファイル共有ネットワーク『イー・ドンキー』(eDonkey)の創設者としても知られるジェド・マケーレブは、ビットコインの仕組みを応用したコンセンサス(Consensus)と呼ばれる二重支払いを防止するアルゴリズムを考案しました。このシステムはビットコインのように無駄な電力を消費せず、さらにビットコインよりも処理速度と効率性に優れたものでした。ジェド・マケーレブがこのコンセプトを考案した当初、彼は経路探索アルゴリズムによって個人や企業が発行したクレジットを第三者が発行したクレジットと交換する仕組みを思い付きましたが、ビットコイン開発者のマイク・ハーンからの指摘で同様のコンセプトが既にカナダのエンジニアのライアン・フッガーによって考案・運用されていることを知りました。
コンセンサス・アルゴリズムについて解説するデイビッド・シュワルツ(日本語字幕あり)
ジェド・マケーレブの目標は、この仕組みにコンセンサス・アルゴリズムによって実現されたカウンターパーティリスクの無い暗号資産を組み合わせることで、より効率的でカウンターパーティリスクの無い為替取引を実現することでした。そして、2011年11月にビットコインの初期のコントリビューターの一人でアメリカ国家安全保障局(NSA)のための暗号化クラウド・ストレージ等の開発を手掛けた暗号技術者のデイビッド・シュワルツがジェド・マケーレブのプロジェクトに参画、更に2012年2月にアーサー・ブリットという天才技術者が2人のプロジェクトに合流し、コンセンサス・アルゴリズムを応用することでビットコインが抱える様々な問題を克服する新しい分散型台帳の開発が始まりました。そして2012年6月、3人はマイニング(採掘)を必要としないビットコインとはまったく異なる仕組みのXRPレジャー(XRP台帳)と呼ばれる分散型台帳の開発に成功し、その台帳上にXRP(エックスアールピー)と呼ばれる暗号資産を発行しました。
※ネット上でしばしばコンセンサス・アルゴリズムのことを PoC や Proof of Consensus と記載している記事を見かけますが、これは誤りです。PoC は Proof of Concept の略語で、本来は概念実証を意味する言葉です。コンセンサス・アルゴリズムは、現在は XRP Ledger Consensus Protocol または略して XRP LCP と呼ばれています。また、XRPレジャーは当初、リップル・コンセンサス・レジャーと呼ばれていましたが、後にXRPレジャーに改名されました。
リップル社の創業
2012年8月、アメリカで初めてP2Pレンディング(クラウドファンディング)サービスを提供したプロスパーの創業者でフィンテック業界のイノベーターとして知られるクリス・ラーセンは、3人が推し進めるプロジェクトに強い関心を示し彼らのチームに合流しました。2012年9月、クリス・ラーセン等のチームは、リップル・プロトコルの考案者であるライアン・フッガーとの話し合いの結果、リップル・プロジェクトを株式交換で買収し、彼らが開発した分散型台帳技術を基盤とした製品とサービスを開発するために現在のリップル社の前身となるニューコイン社を設立しました。そして、分散型台帳上に発行された暗号資産の8割が設立された会社に譲渡されました。このようにして2004年にライアン・フッガーによって開始されたリップル・プロジェクトは、3人の天才エンジニアが開発した分散型台帳のプロジェクトと合流することで新しいスタートを切ることになりました。更に2012年10月、ニューコイン社はオープンコイン社へと社名を変更し、ジャバスクリプト言語によるビットコイン・ウォレットの開発を可能にしたビットコインJS(BitcoinJS)の開発者であるステファン・トーマスを同社の開発チームに迎え入れ、彼らが手掛ける分散型台帳技術は更に洗練されたものになって行きました。
創業期のリップル社(日本語字幕あり)
2013年4月、ウェブブラウザのNCSAモザイクやネットスケープ・ナビゲータの開発者として知られるマーク・アンドリーセンが創業したベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツがオープンコイン社への出資を決定し、翌月には検索エンジン大手のグーグルの投資部門が同社への出資を行いました。
オープンコイン社の最高経営責任者(CEO)に就任したクリス・ラーセンは、分散型の為替取引技術を応用した『価値のインターネット』の構想を発表するとともに銀行市場に参入することを決定しましたが、XRPの分配方針について対立した共同創業者のジェド・マケーレブは2013年7月に同社を去ることになりました。そして、XRPレジャーのアーキテクトの一人であるデイビッド・シュワルツはオープンコイン社の取締役に就任し、ビットコインJSの開発者のステファン・トーマスがジェド・マケーレブに代わって同社の最高技術責任者(CTO)に就任しました。こうして新たなスタートを切ったオープンコイン社は、2013年9月に社名をリップルラボ社(Ripple Labs, Inc.)に変更しました。
XRPレジャーとは
現在XRPレジャーとして知られている分散型台帳は、当初はリップル・コンセンサス・レジャー(RCL)という呼び名でISCライセンスに基づくオープンソースの分散型台帳として開発・公開されました。後にRCLは後述するインターレジャー・プロトコルの統合後にXRPレジャーへと改名されます(以後、XRPレジャーと記します)。XRPレジャーでは、二重支払いの防止をサトシ・ナカモトによって考案されたプルーフ・オブ・ワークを利用した仕組みではなく、独自に開発されたコンセンサス・アルゴリズムによって行うことで、ビットコインの致命的な弱点であるスケーラビリティや消費電力といった問題を克服しました。このXRPレジャーに実装されたコンセンサス・アルゴリズムは、XRP LCP( XRP Ledger Consensus Protocol)とも呼ばれています。
XRPの特徴について説明するステファン・トーマス(日本語字幕あり)
XRPレジャーの最大の特徴はスピードで、取引の承認時間はビットコインの1000倍以上高速です。ビットコインの承認時間はランダムであり、最短でも約10分、場合によっては1日以上を要するのに対し、XRPレジャーでは全てのレジャーが約3秒毎にクローズします。つまり、支払いにビットコインを利用する場合には支払いが完了するまでに非常に大きなボラティリティ・リスク(価格変動のリスク)に晒されますが、XRPを利用する場合にはボラティリティ・リスクは極めて限定的です。また、ビットコインのようなプルーフ・オブ・ワークを利用するシステムでは取引コストが数ドルから数十ドルに跳ね上がる可能性がありますが、XRPレジャーでは1回の取引にかかるコストは10分の1セント程度です。
XRPレジャーの非中央集権性について語るデイビッド・シュワルツ(日本語字幕あり)
XRPレジャー内部にはXRPと呼ばれるビットコインのような暗号資産が存在しますが、これはビットコインのように日本円や米ドルのような法定通貨に取って代わる電子マネーのような用途を想定したものではなく、為替取引などの価値交換を行うためのブリッジ資産として機能します。XRPレジャーに組み込まれたリップル・プロトコルでは、複数の利用者が信用する特定のカウンターパーティが利用者から預かった日本円や米ドルなどの資産に対して発行する『IOU』と呼ばれる電子的な借用証書を交換することで決済が行われます。そして、XRPがIOUの取引を媒介するブリッジ資産として振舞うことで、世界中のあらゆる価値の交換をカウンターパーティリスクを防いで行うことを可能にしました。
世界経済フォーラム テクノロジーパイオニア
2015年10月、リップルラボ社はこの仕組みを世界中の金融機関の間で行われるクロスボーダー決済(国際送金)に応用するためのリップル・ソリューションと呼ばれる金融機関向けのエンタープライズ製品を発表しました。世界情勢の改善に取り組む国際機関である世界経済フォーラムはこれらの功績を高く評価し、リップル社を2015年のテクノロジーパイオニアに選出しました。
インターレジャー・プロトコルの誕生
2015年10月、当時リップルラボ社の最高技術責任者(CTO)を務めていたステファン・トーマスとエヴァン・シュワルツは、ブロックチェーンなどの複数の異なる種類の台帳を横断して価値の移動を可能にするインターレジャー・プロトコル(Interledger Protocol:ILP)を発表しました。このインターレジャー・プロトコルは、リップルラボ社が主導して開発が行われていたリップル・プロトコルを更に発展させるもので、インターネットで利用されているインターネット・プロトコル(TCP/IPなど)をモデルにしたクロスボーダー決済のためのプロトコルです。
ビットコインとXRPレジャーがそれぞれ個別の台帳上で支払いを行ったのに対し、インターレジャー・プロトコルでは暗号エスクロー(クリプトグラフィック・エスクロー)と呼ばれる技術を用いて複数の異なる台帳を横断した支払いを実現します。この技術では、特定の台帳上で発行されたIOU(借用証書)の価値をコネクターと呼ばれる仲介人を介することで異なる台帳上で受け取ることが出来ます。これは簡単に言えば、送金人がビットコインのブロックチェーン上に保有するBTC資産の価値を送り、受取人が銀行の台帳上で米ドルを受け取ることが出来る画期的な技術です。
インターネットで使用される各種技術の標準化を推進する標準化団体のワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)は、この技術が発表されると同時にインターレジャー・ペイメント・コミュニティ・グループを発足し、リップル社のエイドリアン・ホープ=ベイリーを議長にインターレジャー・プロトコルの標準化作業に取り組み始めました。
銀行市場への本格参入
インターレジャー・プロトコルが発表された2015年10月、リップルラボ社は社名を現在のリップル社に変更しました。そして、リップル社は同社が開発する金融機関向けのエンタープライズ製品にインターレジャー・プロトコルを統合することを発表しました。すると、銀行システムの中核を担うコアバンキング(勘定系システム)を開発・販売するCGI、アクセンチュア、DHコーポレーション、ボランテ・テクノロジーズ、インテレクトEUなどが一斉に同社のエンタープライズ製品の採用を表明しました。更にバンクオブアメリカ・メリルリンチ(米国)、サンタンデール銀行(スペイン)、ウエストパック銀行(オーストラリア)、ラボバンク(オランダ)、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)、カナダロイヤル銀行(カナダ)など世界中の大手金融機関からリップル社のエンタープライズ製品を採用することが次々と発表されました。同年12月、米経済紙のフォーブズはリップル社を『ザ・フィンテック50』に選出しました。
リップル社のエンタープライズ製品について説明する同社のプロダクト副社長(日本語字幕あり)
そして、シンガポールの情報通信開発庁(IDA)が主導するプロジェクトで、スタンダードチャータード銀行、DBS銀行がリップルの技術を利用した貿易金融システムの実証実験を開始しました。このとき、リップル社がインターレジャー・プロトコルの発表を公式ウェブサイト上でカウントダウンしたことで、これら一連の出来事は銀行市場に本格的に参入した同社の戦略を象徴する出来事となりました。そして、翌年以降も世界中の大手金融機関によるリップル・ソリューション採用とコアバンキングへの統合の動きは続きました。
内外為替一元化コンソーシアム
2016年1月、日本のSBIグループはリップル社への出資を決定し、同社の発行済み株式の17%を取得しました。更に同年5月、SBIグループとリップル社によって合弁会社のSBIリップルアジアが日本に設立されました。そして同年10月、りそな銀行を会長行としてみずほフィナンシャルグループ、三井住友信託銀行などを含む42の邦銀が創立メンバーとなり『内外為替一元化コンソーシアム』が発足し、SBIリップルアジアに事務局が置かれました。海外の銀行が国際送金のみにリップル・ソリューションを利用するのに対し、日本の内外為替一元化コンソーシアムではILPの仕組みが国内送金にも応用できることに着目し、『RCクラウド』と呼ばれる国内送金と国際送金を同一の仕組みで実現するクラウド型の決済ネットワークの構築を行うのが特徴です。2016年8月にSBIグループから同コンソーシアムの設立が発表された当初は、横浜銀行と住信SBIネット銀行のみが参加を表明していましたが、このように同コンソーシアムの発足時には参加行は42行となり、その後も三菱UFJ銀行、三井住友銀行、ゆうちょ銀行などが続々と参加を表明したことで、2017年7月までに日本の全銀行の総資産の8割を占める61の国内銀行が同コンソーシアムへの参加を表明しました。
SBIグループが発足した内外為替一元化コンソーシアム
リップルネットの誕生
その後も世界中の大手金融機関によるリップル・ソリューション採用の動きは続き、2016年9月にはバンクオブアメリカ・メリルリンチ、カナダロイヤル銀行、サンタンデール銀行、スタンダード・チャータード銀行、ウニクレーディト・イタリアーノ、ウエストパック銀行が分散型台帳技術(DLT)を採用する世界初のインターバンク・グループとなる『グローバル・ペイメンツ・ステアリング・グループ』(GPSG)を発足し、DTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)の前CEOでリップル社のアドバイザーを務めるドナルド・ドナヒューが会長に就任しました。日本の金融機関としては、三菱UFJ銀行が2017年3月にこのインターバンク・グループに参加しました。
リップル社から発表されたリップルネットの概要
そして同月、それまでリップル・コンセンサス・レジャー(RCL)と呼ばれてきた分散型台帳にインターレジャー・プロトコルが統合され、RCLは現在のXRPレジャーへと改名されました。同年8月、リップル社はインターレジャー・プロトコルを統合したエックスカレント(xCurrent)、エックスラピッド(xRapid)、エックスビア(xVia)と呼ばれる金融機機関向けのクロスボーダー決済のための3つのエンタープライズ製品と、それらの製品を採用した金融機関などによって構築されるクラウド型の資金決済ネットワークである『リップルネット』(RippleNet)を発表しました。
FedPayments Improvement(FRB)による Ripple の紹介
リップル社から発表されたこれらのエンタープライズ製品は、金融機関が既存の決済プロセスにILPを応用することで、これまで数日かかっていた国際送金を数秒で実行することを可能にするものでした。そして、FRBは米国の次世代決済システムの選定を行うファスター・ペイメント・タスク・フォースの活動報告において、インターレジャー・プロトコルを統合したリップル社のエンタープライズ製品が次世代国際送金の土台となることができると言及しました。リップルネットの誕生を受けて、GPSGとして発足されたインターバンク・グループも、後に『リップルネット・コミッティー』へと名称が変更されました。
RCクラウドの始動
2017年12月、SBIリップルアジアはILPを利用するリップル・ソリューションのエックスカレント(xCurrent)を統合したRCクラウド2・0の構築を完了したと発表しました。そして、同社の沖田貴史社長はBSデジタルの日経モーニングプラスに出演し、世界で初めてリップル社のエンタープライズ製品を統合したスマホ向け送金アプリケーションのデモンストレーションを行いました。このスマホアプリを利用すると、利用者は送金相手の電話番号やQRコードを指定するだけで、自分の銀行口座から相手の銀行口座に無料または極僅かな手数料で瞬時に送金が可能になります。このスマホアプリは、2018年3月に『マネータップ』という名称で内外為替一元化コンソーシアムから正式に発表され、2018年10月から住信SBIネット銀行、りそな銀行、スルガ銀行の顧客向けに提供が開始されました。
“新技術”でいつでも送金OK 地銀などが新サービス – ANN NEWS
SBIリップルアジアの親会社のSBIホールディングスは、2019年3月にマネータップ株式会社(マネータップ社)を設立し、国内の13行(愛媛銀行、きらぼし銀行、京葉銀行、山陰合同銀行、滋賀銀行、清水銀行、新生銀行、住信SBIネット銀行、スルガ銀行、セブン銀行、広島銀行、福井銀行、北陸銀行)が資本参加しました。これにより、内外為替一元化コンソーシアムは事実上、マネータップ社として法人化されました。
注目を集めるXRP
日本経済新聞は2017年3月7日に『Beyond the Finance 金融を超えて』という連載記事の第2回で初めてリップル社に言及しました。そして翌日の電子版で同連載の『米リップルCEO「価値のやり取り、飛躍的に安く」』という記事の中で暗号資産のXRPについて初めて触れました。この記事の中で、同年1月からリップル社の最高経営責任者(CEO)に就任したブラッド・ガーリングハウスは次のように述べました。
ブラッド・ガーリングハウス:
「リップルが目指すのは『価値のインターネット化』だ。情報がインターネットを通じて低コストで送れるようになったように、価値を低コストで送れるようにする。これまで大口の送金でなければ割に合わなかった少額の送金なども可能になる。価値を動かすコストが飛躍的に低下する」「例えば何かを利用、消費したときにリアルタイムで価値を移動できる。これまで自動車は部品会社が自動車メーカーに納入し、消費者はメーカーに代金を支払っていた。将来は消費者が部品メーカーにも相応の代金を直接支払えるようにしたい。コーヒーならば、消費者がレストランで支払ったお金がそのままコーヒー栽培農家にも送金されるようになる」
出典:日本経済新聞電子版『米リップルCEO「価値のやり取り、飛躍的に安く」』2017年3月8日より
XRPに対するビジョンを説明するリップル社CEO(日本語字幕あり)
これにより、リップル社とXRPの知名度は飛躍的に上がり、更に3月31日の日本経済新聞の朝刊で三菱UFJ銀行が送金効率化のための世界連合に加盟するとしてリップルネットへの参加が大々的に報じられたことで、それまで1円以下で停滞していたXRPの価格は一時50円を超えました。そして、SBIリップルアジアの沖田貴史社長が12月15日に放送された日経モーニングプラスで『マネータップ』のデモンストレーションを行ったのに続き、リップル社CEOのブラッド・ガーリングハウスが同月27日にCNBCとブルームバーグに出演して同社のXRPに焦点を当てた戦略をテレビの生放送で語ったことで、XRPの価格は2017年の年末から年明けにかけて再び急騰しました。
CNBCでXRPについて解説するリップル社のCEO
しかしながら、2018年1月26日に日本でXRPを取り扱っていた唯一の大手暗号資産取引所であったコインチェック社から約580億円分のNEM(XEM)が盗まれる事件が発生したことから、XRPを含むほぼ全ての暗号資産の価格が急落しました。これはコインチェックが技術的な理由から、同取引所の取り扱い資産のうちNEMだけを安全なコールドウォレットに保管していなかったために被害が拡大したことが原因でした。
フォックス・ビジネスが世界第2位の暗号通貨としてXRPを紹介
価値のインターネットとは
リップル社が推進する『価値のインターネット』は、英語ではインターネット・オブ・バリュー(Internet of Value:IoV)と呼ばれています。ビットコインなどの他の暗号資産に投資(または投機)している多くの人が、リップルネットやインターレジャー・プロトコル(ILP)のことを単にビットコインを発展させたものだと考えているかもしれませんが、それは完全に誤った認識です。なぜなら、リップル社の社名にもなっている『リップル』とは、ビットコインが誕生した2009年よりもはるか以前の2004年にカナダのライアン・フッガーによって考案されたリップル・プロトコルが元になっているからです。インターレジャー・プロトコルを基盤とするリップルネットは、このライアン・フッガーによって生み出された構想を更に推し進めるものです。
私たちが現在利用しているインターネットは、1990年にワールド・ワイド・ウェブ(World Wide Web:WWW)としてティム・バーナーズ=リーによって考案されました。この同氏からの提案は『WorldWideWeb: Proposal for a HyperText Project』というホワイトペーパーで知られています。リップル社は2017年10月にSWELL(スウェル)と呼ばれるリップルネットに参加する世界中の金融機関と企業が集うカンファレンスを開催し、このカンファレンスの中でワールド・ワイド・ウェブの考案者(ウェブの父)であるティム・バーナーズ=リーが、FRB前議長のベン・バーナンキ等とともに基調講演を行いました。
90年代前半のインターネット黎明期には電子メールで文字を送るのがその用途の大半で、パソコンで画像を取り扱うためには特別なハードウェアを取り付ける必要がありました。当時、ブラウン管モニターの黒い背景に白い文字が表示されているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。それが技術の発展により、現在では個人が所有するパソコンやスマートフォンで動画や3次元の情報すら取り扱うことが出来るようになりました。しかし、現在に至ってもインターネットには欠落した機能があります。それは送金機能です。私たちが普段情報を送るために利用しているHTTP(ハイパーテキスト・トランスファー・プロトコル)と呼ばれるシステムには、じつはお金を送るためのステータスコードが予約されていますが、現在まで使われないままになっています。リップル社がそのインターネットに欠落した送金機能を実現しようとしているのが『価値のインターネット』と呼ばれる構想です。
価値のインターネットの構想を語るクリス・ラーセン(日本語字幕あり)
SWELLに登壇したFRB前議長のベン・バーナンキが「XRPのようなネイティブな公的資産と分散型台帳技術(DLT)は、21世紀の決済の革新と金融包摂にとって極めて重要である。」と述べたことからも、このような技術がこれからのインターネットと金融の発展に極めて重要なことが分かります。世間では同氏の発言がビットコインについて述べたものだと誤解されかねない表現で情報が発信されている事例も見受けられますが、この発言はリップルネットでブリッジ資産として利用されるXRPについて同氏がその有用性について言及したものです。
XRPの実用化
2017年10月に開催された最初のSWELLで、リップル社はリップルネットに参加する金融機関が100を超えたことと共に、XRPを利用する国際送金のためのエンタープライズ製品であるエックスラピッドのパイロットが開始されたことを発表しました。パイロットとは、製品を導入した企業が実際にその製品を利用して顧客の資産を移動する試運転のことです。このパイロットでは、アメリカで国際送金サービスを提供するクアリックス社(Cuallix)がアメリカとメキシコ間で同製品を利用した国際送金を実施し、XRPを利用した国際送金の実用化の最初の事例となりました。国際送金サービス大手のマネーグラムとウエスタンユニオンも、それぞれ2018年の1月と2月にエックスラピッドのパイロットを実施することを発表しています。
2017年に開催された第一回目のSWELL
そして、2018年10月に開催された第2回目のSWELLでは、全米に1400以上のクライアントを有する協同組織金融機関であるカタリスト・コーポレート・フェデラル・クレジットユニオンやクアリックス社を含む複数の金融機関がエックスラピッドの商業利用を開始することが発表されました。
クリントン元大統領が参加した第二回SWELL
この2018年に開催された第2回目のSWELLでは、インターネット黎明期からITバブルまでの1993年から2001年までアメリカ大統領を務めたビル・クリントンと同氏の大統領任期中に米国国家経済会議(NEC)の議長を務め2015年1月からリップル社の取締役に就任したジーン・スパーリングが共に壇上に上がりました。この中でビル・クリントンはインターネットが出現した90年代にアメリカ大統領を務めた経験から、ブロックチェーンやAI技術、ロボット技術などの新しいテクノロジーの発展から生じるアクセスへの格差の問題や、古い規制制度によってイノベーションが台無しになってしまう可能性について言及しました。そして、革新的な技術へのオープン性を維持しながら、それらへの規制に対して慎重なアプローチを取ることの必要性を伝えました。
リップルネットへの参加を表明したユーロ・エクシム銀行
2019年1月にはイギリスのユーロ・エクシム銀行がエックスラピッドを利用した国際送金の開始を発表し、銀行がXRPの実用化を表明した世界初の事例となりました。また、同行はエックスカレントを貿易金融に応用するパイロットを実施することも明らかにしています。リップル社は2019年1月時点でリップルネットの参加金融機関が200を超えたことを公式に発表しました。同社CEOのブラッド・ガーリングハウスは、2019年からエックスラピッドの利用が拡大するとの見通しを語っており、金融機関による国際送金へのXRPの活用が今後加速することが期待されています。そして、国際送金サービス大手のマネーグラムは2019年6月にリップル社との戦略的提携を発表し、リップル社は同社の株式を3000万ドル分購入できる権利を取得しました。この資本提携によりリップル社から2年間で最大5000万ドルがマネーグラムに出資されることが発表され、同社は翌月からエックスラピッドを利用した国際送金を開始しました。
「このたびの提携は、国際送金において異なる通貨の即時決済を可能とするエックスラピッドに注力します。銀行が1つの通貨から送金して即座に目的の通貨で決済できるようにすることで、事前資金調達への依存を減らします。XRPレジャー用のデジタルアセットであるXRPを異なる通貨間の送受信におけるブリッジ通貨として活用します。XRPは、1取引当たり約30ドルの他のデジタルアセット手数料と比較して、1ペニーのほんのわずかな額の取引手数料で決済を可能とする、最も効率的なデジタルアセットです。」
出典:SBIホールディングス『米Ripple社による米MoneyGram社への出資ならびに戦略的提携に関するお知らせ』2019年6月18日より
ブルームバーグでマネーグラムとの提携について語るリップル社CEO
ユニコーン企業の誕生
マネーグラムとの戦略的資本提携を発表したのと同じ2019年6月、リップル社は政府・規制当局との連携を強化するためにアメリカ証券取引委員会(SEC)でシニア・カウンセルを務めたミシェル・ボンドを規制対応チームの重役(Global Head of Governmental Relations)に迎え入れました。そして翌月、ニューヨーク州はデジタルカレンシー・タスクフォースの代表としてリップル社のライアン・ザゴーン(Director of Regulatory Relations)を選任しました。その後もリップル社の規制対応チームの強化を目的とする積極的な人事は続き、同年9月にはアメリカで『トークン分類法』を提出したワーレン・デイビッドソン米国下院議員の元立法補佐官であるロン・ハモンドが同社の幹部(Manager of Government Relations)に就任し、元財務省の国際市場担当補佐官でCFTC会長の上級顧問(シニア・カウンセル)を務めた経験を持つスーザン・フリードマンが同じく同社の国際法務担当(International Policy Counsel)に就任しました。この年の10月、リップル社はこれらの規制対応チームの本部としてワシントンDCにオフィスを開設することを発表し、元財務省長官顧問のクレイグ・フィリップスが同社の取締役に就任しました。更にバンク・オブ・アメリカやノーブル銀行で法務担当役員を務めた経験を持つベン・メルニッキが重役(Americas Head of Regulatory Affairs)として規制対応チームに加わり、6月から同社の重役に加わったミシェル・ボンドは米国ブロックチェーン協会の役員に就任しました。
タイとイギリスで始まったリップル社のブランドキャンペーン
2019年10月、リップル社はリップル・ソリューション3製品(エックスカレント、エックスラピッド、エックスビア)をリップルネットの共通プラットフォームに統合し、暗号資産のXRPを媒介通貨としてクロスボーダー決済を実現するそれまでエックスラピッドと呼ばれていた製品を『ODL』(オンデマンド・リクイディティ)という名称に変更しました。さらに同社は同年11月に開催された金融機関向けの国際カンファレンスSWELLの中で、リップルネット・メンバーによる新規コリドー(送金経路)の開設を加速する『リップルネット・ホーム』(RippleNet Home)と呼ばれる製品をリリースしました。このカンファレンスにおいて同社CEOのブラッド・ガーリングハウスはリップルネットの参加機関が300を超えたことを明らかにし、ペルー第2位の銀行であるインターバンクがODLを利用した国際送金を開始することを発表しました。ここに全ての経緯を書き連ねることはできませんが、他にも同年11月に米国ブロックチェーン協会が発足した証券法ワーキンググループの共同議長にベン・メルニッキが就任するなど、2019年はリップル社にとって激動の年となりました(詳細はRippleの歴史を参照してください)。
2019年に開催された第三回目のSWELL
2019年12月、リップル社は投資ラウンドのシリーズCで2億ドルを調達し、経済誌のフォーブズは同社の企業評価額が100億ドルに到達したと報道しました。このときXRPの価格は僅か20円程度でした。そして、スタートアップやテクノロジー企業の業界レポートを発行するCBインサイツは、この年のユニコーン企業のリスト上位にリップル社を掲載しました。これがユニコーン企業『リップル』が誕生した大まかな経緯です。
リップル社の企業評価額が100億ドルに到達
関連項目
>>XRPの価格をチェック