「すべての人のための準備金」(”Reserves for All”)

ディーク・ニーペルト教授

ディーク・ニーペルト(Dirk Niepelt)教授は、スイスのベルン大学でマクロ経済学の教授を務めており、CEPR(経済政策研究センター)のフィンテックとデジタル通貨に関する研究・政策ネットワークのリーダーでもあります。彼の研究分野は、マクロ経済学、国際金融、公共財政など多岐にわたります。

ニーペルト教授は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学の博士号を取得し、サンクトガレン大学で学士号と博士号を取得しています。以前は、スイス国立銀行の財団であるゲルツェンゼー研究センターの所長を務め、ストックホルム大学の国際経済研究所(IIES)で助教授としても活躍しました。

彼の著書『Macroeconomic Analysis』は、現代のマクロ経済理論を包括的かつ厳密に紹介しており、大学院生や研究者にとって貴重な参考書となっています。また、Google Scholarによれば、彼の研究は多くの引用を受けており、学術界で高く評価されています。

さらに、ニーペルト教授は、SUERF(欧州貨幣金融フォーラム)のフェローやCESifo(ミュンヘン)の研究ネットワークメンバーとしても活動しており、国際的な経済政策の議論に積極的に参加しています。

 

すべての人のための準備金

「すべての人のための準備金」(”Reserves for All”)とは、中央銀行の準備金(reserves)を一般の人々や企業が直接利用できるようにする構想を指します。通常、中央銀行の準備金は商業銀行が中央銀行との間で利用するものであり、一般市民や企業が直接アクセスすることはできません。しかし、この構想では、一般の利用者にも中央銀行の準備金に直接アクセスする手段を提供することで、支払いシステムや金融システムの効率化と安定化を目指します。

背景

  • 現在の金融システムでは、一般の人々や企業が利用する資金(預金や送金など)は主に商業銀行によって管理されています。
  • 商業銀行が預金の一部を中央銀行の準備金として保有することで、金融システムの安全性が維持されています。
  • 一方、「すべての人のための準備金」では、個人や企業が中央銀行に直接口座を持ち、その準備金を利用することを可能にする仕組みを指します。

特徴

  1. 中央銀行デジタル通貨(CBDC)との関連性
    この構想は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の一形態として議論されることが多いです。CBDCはデジタル形式で提供される中央銀行発行の通貨であり、一般の人々や企業が直接利用できるものとして設計される可能性があります。
  2. 金融安定性への影響
    「すべての人のための準備金」では、中央銀行が銀行システム全体の中でより重要な役割を果たすことになります。これにより、複数の小規模預金者による取り付け騒ぎのリスクが軽減され、システム全体が安定するという主張があります。
  3. 政治的・経済的懸念
    一方で、中央銀行が銀行システムでより大きな役割を担うと、商業銀行の役割が縮小し、金融市場全体に大きな変化をもたらす可能性があります。これが、金融市場や政策決定の自由度に影響を及ぼすという懸念も存在します。

メリット

  • 金融包摂性の向上:銀行口座を持たない人々も中央銀行のサービスを利用できるようになる。
  • コスト削減:銀行を介さずに送金が可能になり、手数料が低減される。
  • 安全性の向上:直接中央銀行のシステムを利用することで、金融機関の倒産リスクなどの影響を回避できる。

課題

  • 商業銀行の収益構造への影響。
  • 中央銀行の業務負担増加。
  • プライバシーやデータ保護の懸念。

このように、「すべての人のための準備金」は金融システムの構造に革新をもたらす可能性がある一方で、政治経済的な影響や技術的な課題について慎重な議論が必要です。

 

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