価値のインターネットとは

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価値のインターネットとは

今回はリップル社が提唱する『価値のインターネット』について解説してみようと思います。価値のインターネットは、英語では Internet of Value (IoV) と呼ばれています。もしかしたら、多くの方々が Ripple が単にビットコインを発展させたものだと考えているかもしれませんが、それは完全に間違った認識です。

私たちが現在利用している情報のインターネットは、1990年に World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ)としてティム・バーナーズ=リーによって考案されました。この1990年に同氏から出された提案は『WorldWideWeb: Proposal for a HyperText Project』というホワイトペーパーで知られています。このティム・バーナーズ=リーが、2017年10月にリップル社によって主催された SWELLカンファレンスに登壇したことは、皆さんの記憶にも新しいと思います。

画像1.SWELLに登壇したティム・バーナーズ=リー 出典:ripple.com

インターネットが一般的に利用され始めた当初は、電子メールで文字を送る用途がほとんどで、パソコンで画像を取り扱うためには特別なハードウェアを取り付ける必要がありました。当時、ブラウン管モニターの黒い背景に白い文字が表示されているのを見たことがある人も多いでしょう。それが技術革新により、現在では動画や3次元の情報すら取り扱うことが出来るようになりました。

しかし現在に至ってもインターネットには欠落した機能があります。それは送金機能です。私たちが普段情報を送るために利用している HTTP と呼ばれるシステムには、じつはお金を送るためのステータスコードが予約されたままになっています。リップル社がその欠落した機能をインターネット上で実現しようとしているのが『価値のインターネット』と呼ばれるものです。

1993年に世界初のウェブブラウザを開発したマーク・アンドリーセンはこの活動に賛同し、2013年に自身が経営するベンチャーキャピタルからリップル社への出資を行いました。これに続き、Google などの世界の名だたる企業が同社への出資を開始しました。

 

Rippleプロトコルの起源

Rippleプロトコルは、2004年にライアン・フッガーというカナダの技術者によって考案されました。これは IOU と呼ばれる負債に紐づけられた手形を交換することで送金と支払いを実現するためのプロトコルで、『Money as IOUs in Social Trust Networks & A Proposal for a Decentralized Currency Network Protocol』というホワイトペーパーで提案されました。

図1.ライアン・フッガーのRippleプロトコル

ライアン・フッガーが考案した Rippleプロトコルは、取引の対象となる個人のクレジット、すなわち IOU を個人間で取引するというアイデアで、この仕組みを使うことでいつでも誰もが自らの通貨やクレジットを確実に所有することを実現しました。彼はこの仕組みを長年かけて開発し、非営利で運営していました。緻密に考えられたこの仕組みはとても上手く機能しましたが、発表された時期が早すぎたためか、有識者から多くの関心を集めたものの結局幅広く世に広まることはありませんでした。

 

ビットコインの誕生

ビットコインは2008年にサトシ・ナカモトを名乗る匿名の人物によって『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』として提案されました。これは Proof of Work という認証アルゴリズムとブロックチェーンと呼ばれる台帳技術を組み合わせ、分散型台帳技術(DLT/Distributed Ledger Technology)の先駆けとして登場しました。

分散型台帳とは、簡単に言うとデータを保存するためのデータベースです。これまでの台帳と異なるのは、ユーザーが手元の台帳を書き換えると世界中で同じネットワークに接続している全てのユーザーの台帳も書き換わるという点です。これまで同一の台帳を共有するためには、中央のサーバーで世界中の人達が利用する台帳を集中管理する必要がありましたが、ビットコインは分散型台帳というアイデアでこの問題を克服しました。ビットコインのシステムでは、台帳(ブロックチェーン)に BTC と呼ばれる電子ポイントの取引履歴が書き込まれており、世界中のユーザーがこの取引履歴を共有しています。

その後、ビットコインの性能問題が明るみになり、サトシ・ナカモトはギャビン・アンドレセンにビットコイン・プロジェクトの指揮権を譲り姿をくらませました。プロジェクトを引き継いだギャビン・アンドレセンは、2015年8月にGoogle出身のコア開発者であるマイク・ハーンとともにブロックサイズを拡張するための Bitcoin XT をリリースしました。これにより、ビットコインの性能問題は一定の解決を見ると思われましたが、ビットコイン・ネットワークのハッシュパワーを独占する中国人マイナーとのコンセンサスを取ることが出来ず現在に至ります。

画像2.20万件の送金詰まりを起こすビットコイン(2017年12月)

しかし、ビットコインが提案した分散型台帳というアイデアは世界中の技術者の注目を集めることになりました。

 

Ripple Consensus Ledgerの登場

世界一のビットコイン取引所 Mt.Gox の創業者であったジェド・マケーレブは、2011年3月頃にビットコインの性能問題を克服した Consensus(コンセンサス)と呼ばれるアルゴリズムを考案し、デイビッド・シュワルツ、アーサー・ブリットと共に新しい分散型台帳技術の開発を始めました。プロジェクトは2012年8月にフィンテック業界のイノベーターとして知られるクリス・ラーセンを迎え入れ、話し合いの末にRippleプロトコルの考案者であるライアン・フッガーからRippleプロジェクトの指揮権を引き継ぎ、最新の分散型台帳技術とRippleプロトコルの統合が開始されました。クリス・ラーセン等は2012年9月に OpenCoin, Inc. を設立するとともに、BitcoinJS の創始者であるステファン・トーマスを開発チームに迎え入れることで、彼らが手掛ける分散型台帳技術はさらに洗練されて行きました。こうして現在の XRP Ledger の原型となる Ripple Consensus Ledger(RCL)が誕生しました。

Ripple Consensus Ledger はビットコインと同様に XRP と呼ばれる内部通貨のようなデジタル資産を有しますが、この XRP は支払い通貨としての利用を想定したものではなく、Rippleプロトコルの IOU(つまり負債)を交換するためのブリッジ通貨として機能するように設計されました。IOU は BTC、JPY、USDなどの預かり資産に対する残高として発行される仕組みで、Ripple Consensus Ledgerで構築されたRippleネットワーク内で IOU を交換することでクロスボーダー決済を実現しました。

図2.クロスボーダー決済を実現したRipple Consensus Ledgerの仕組み 出典:ripple.com

この Ripple Consensus Ledger とビットコインのビジョンが大きく異なるのは、ビットコインが単一の世界通貨によってクロスボーダー決済を実現しようとしたのに対し、Ripple Consensus Ledger ではドルなどの特定の通貨を保有する個人や企業が中国元などの異なる通貨建てでの支払いを可能にするユニバーサル・トランスレーターの仕組みを取り入れたことです。これはノーベル経済学賞を受賞した経済学者フリードリッヒ・ハイエクがかつて「電子計算機が、最新の為替レートで全ての通貨の全ての価格の等価値を数秒ではじき出すだろう」と述べた電子計算機の仕組みを、まさに分散型台帳技術を利用して実現しようとしたものと言えます。女性として史上初のジョン・ベイツ・クラーク賞の受賞者で経済学者のスーザン・アティはこのアイデアに賛同し、OpenCoin, Inc. の創業時から同社のアドバイザーを務め、現在は Ripple, Inc. へと社名を変更した同社の取締役を務めています。

 

ILPが実現する『価値のインターネット』

リップル社CTOのステファン・トーマスは、2015年10月に Ripple のクロスボーダー決済の仕組みを更に発展させたインターレジャー・プロトコル(ILP)を発表しました。これは『A Protocol for Interledger Payments』というホワイトペーパーによって提案された、インターネットとクロスボーダー決済を融合する革新的な仕組みです。

ビットコインと Ripple Consensus Ledger がそれぞれ個別の台帳上で支払いを行うのに対し、インターレジャー・プロトコル(ILP)では異なる複数の台帳を横断した支払いを暗号エスクロー(Cryptographic Escrow)と呼ばれる技術を用いて実現します。つまり、インターレジャー・プロトコル(ILP)では、ビットコインの台帳上で管理されている BTC の残高を利用して、他の台帳の通貨(例えばUSD)建ての支払いが可能になります。そして、2017年3月にリップル社は Ripple Consensus Ledger にインターレジャー・プロトコル(ILP)を統合し、XRP Ledger に改名しました。

図3.複数の台帳を横断したILPの送金の仕組み

このRippleプロトコルを更に発展させた新しい仕組みにより、リップル社が目標として掲げていたクロスボーダー取引やウェブペイメント、マイクロペイメントなどの実現がより現実味を増すことになりました。

同社が開発している ILP を統合したエンタープライズ製品では、高速な XRP Ledger を利用することで、わずか3秒で国際送金が完了します。この技術に目を付けたのが世界中の100を超える金融機関です。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチカナダロイヤル銀行サンタンデール銀行スタンダードチャータード銀行ウニクレーディト・イタリアーノウエストパック銀行は、Global Payments Steering Group(GPSG)と呼ばれる Ripple を利用した銀行間送金を実現するためのインターバンクグループを設立しました。この動きに賛同した世界中の金融機関は、RippleXRP を国際送金に利用するために銀行の基幹システムにリップル社の製品を統合しました。

 

日本の金融機関の動き

日本では SBI Ripple Asia が主導する内外為替一元化コンソーシアムにメガバンク3行を含む61行が参加し、2018年から銀行のスマートフォンアプリを利用した24時間365日のリアルタイム送金サービスを開始する予定です。

この来春から開始されるスマートフォンを利用した新送金サービスでは、口座番号での入力のほか、電話番号QRコードによる送金が可能になります。また、Rippleを統合したことで僅かな手数料で少額の送金が行えるようになりました。これにより、都内に出かけている友達にちょっと買い物を頼みたいときなどに、気軽に少額のリアルタイム送金をすることが出来るようになります。

 

インターオペラビリティ(相互運用性)

リップル社から発表されたエンタープライズ製品は、国際送金のためのインフラを構築する金融機関や企業が利用することを目的に開発が行われています。xVia と呼ばれる製品は、リップル社の製品を統合している銀行や流動性プロバイダーの送金システムに決済事業者やその他の企業がシームレスにアクセスすることを可能にします。これにより、Paypal や Alipay などの決済サービスを提供する企業や Amazon、Airbnb などの国際送金を行いたい企業が RippleNet と呼ばれるインターレジャー・ネットワークを利用して瞬時に国際送金が出来るようになります。

図4.XRP Ledgerを統合したRippleNetの予想図

 

価値のインターネットが実現する未来

約30年前にインターネットが空っぽだったように、現在リップル社によって構築が始められたばかりのインターレジャーもまだ中身は空っぽです。インターネット送金のためのインフラだけが構築されても、その上で動くサービスがまだ構築されていないからです。黒い背景に白文字で電子メールを送っていた頃に、まさかスマホで動画が見られるようになるとは殆どの人は考えていなかったでしょう。まさに現在のインターレジャーがそれと同じ状態です。

XRP に投資する人達が現在の国際送金時価総額から XRP の適正価格を計算しようとしていますが、それはまったく意味のないことです。電子メールが登場したばかりの頃、郵便(手紙)のシェアの何パーセントを電子メールが奪うかが議論された時代がありました。しかし、Line などの SNS サービスを利用したメッセージと郵便で送られる手紙の量を比較することほど愚かなことはありません。リップル社が中心となり手掛けられてきた XRP や ILP といった革新的な技術は、単に銀行間の国際送金を実現するためだけのものではなく、国境を超えたマイクロペイメントやウェブペイメントを実現するための基礎となる技術です。

まだこの世に存在しないマイクロペイメントの需要や送金時価総額を予想することは、現時点では誰にも出来ないことです。予想が不可能な未来の時価総額の計算をするよりも、『価値のインターネット』が実現する未来がいったいどのようなものになるのかを空想した方が、きっと楽しいに違いありません。そこから新しいモノやサービスが生まれてくるからです。

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